胸騒ぎ

氷鷹北斗side


部長がこの人にキスをした、ということに驚きを隠せなかった。俺には『もっとそれ以上のことをやっているのではないか』と思った。

…それと、部長の表情。

付き合ってるのか確認すれば付き合っていないと答え皆にあんな感じ、と言う。まさかそんなこと。

「抱いてほしいと言われれば抱くし、俺は何でもできるよ。」

少し怖かった。この人は今どんな気持ちなのか。動揺が隠せなくてそれを見たこの人は自虐的に笑った。

…引いてはいない、はずだ。ただ驚いているだけ。そういう人もいるんだな、って。周りのやつらはその事についてどう思ってるのか。


この人はとても愛されてる。

「俺は…それでいい、と思い、ます。」

この人の腕を掴んで本当の事を言ったが自分でも嘘を言ってるように思えた。この人も驚いてる様子だ。

「優しいね。」

俺の頭に手を置かれる。

「嘘じゃない。」

「はいはい、前向きに捉えとく。」

…優しいのはどっちだよ。

「…はい。」

この人との間に壁ができた気がする。



「衣更。連れてきたぞ。」

あれから気まずくなってしまい何も話さなかった。レッスン室の扉を開け衣更に逃げるように話しかける。

「…!玲吾先輩!!」

衣更はこの人を見るなり、この人の元に走っていく。そして俺を横切った。

「捕まっちゃったんだ。」

「本当に来てくれるとは…」

「えー。俺、約束は守るよー。」

「嘘っぽい…でも、ありがとな!」

「……。」



「北斗も、悪いな…連れて来てくれて!」

「…っえ?ああ、礼を言われる程ではない。」

正直あまり話を聞いていなかった。衣更とあの人をボーッと見つめていただけだった。

…なんでだ?

「やっぱりさー、海崎先輩ってアイドル科?」

床に座ってる明星が何気なく聞いた疑問。確かに俺も気になっていることだ。

「そうだよ。」

案外あっさりと答える。

「…!」

「それじゃあ、最近ここら辺をうろちょろしてるイケメンの噂って…海崎先輩だったですね!!」

「イケメン?嬉しいな。」

この人はクスッと口に拳を近づけて笑う。

あぁ、皆から愛される理由がわかった。



氷鷹北斗side終

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