いち
俺はビックリするくらいでかい。彼は小さい。…あ、身長が。
伸びに伸びて190くらいある俺と、160センチとかわいいなずな。30センチ差のカップルである。二人で歩いていると凸凹コンビと言われる。
やはりなずなはコンプレックスなのか怒ってしまう。俺からしたらそんなこと、別に。茶化した人が居なくなってむくれるなずなと二人っきりになると必ず抱っこしてキスを送る。それが毎回。
この身長差での問題点。キスだ。ちゅーだ。接吻だ。
唐突にキスしたい症候群に陥ってしまい、立ったままキスするということは誰しもあるだろう。レッスン後の帰り道とか、俺を見上げて笑う姿などなど。なずなって立ってるだけでもかわいいの自覚してほしい。ほんと。
ちゅっと軽くするだけで「なにするんら!」なんて真っ赤にして言うからついついがっついてしまう。
…つまり、だ。立ったままだと俺が前屈みになる。
そしてついに今日俺は猫背気味だとセンセーに注意された。理由は明白だろう。そりゃあ猫背になるわな。
だから今日一日背筋を伸ばして過ごしてみた。なずなには秘密だ。絶対怒る。禁欲される。怖い。
やっと一日が終わってなずなは俺の家に寄った。俺の家のソファに隣同士で座って俺に寄りかかりながら雑誌を読んでいる。
俺も気にせず本を読み進める。これが普段だから。
「…海行きたい。」
ふいになずなが口を開いた。雑誌の見ていたページは海の写真がドーンと大きく載ってる。誰もが行きたくなるような写真だ。
続いてなずなに視線を移すと上目遣いで俺を見ていた。しばらく見つめあっていたらなずなが俺の太股に手を置いてピッタリと身体をくっつけてきた。
「……。」
思わず強く抱き締めそうになった。
「俺も、行きたい。」
腰を抱き寄せ頭のてっぺん辺りに顔を埋める。
「わ、」
いい匂いする。癒される。
「こっち向いて。」
素直に上を向いてくれた。前髪を掻き上げ、見えた額にキスをした。
「…ん、?」
本にしおりを挟んでテーブルに置き、撫でる手を離して立ち上がる。
「コーヒー淹れる。なずなも飲む?」
「…飲む。」
不貞腐れているようにも見えた。
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