▽ 宝物のキミへ
陣平ちゃんの缶コーヒーと、なまえが好きなレモンティー。そして自分用のミネラルウォーター。
三本を手に取り車に視線を向けると、楽しげに笑いながらじゃれ合う幼馴染みの姿。
そんな二人の様子に自然と頬が緩むのが分かった。
全てが元通り、なんてすぐにはそう上手くいくわけもなくて。松田の気持ちを考えればどう接していいのか分からなくなる日もあった。
それでもやっぱり三人で過ごす時間は特別で。かけがえのないもの、に変わりはないのだ。
完全とはいえなくても、お互いにそう思う気持ちに偽りはない。だからこそ“今”をこうして一緒に過ごすことができている。
「悪ぃ、待たせたな!行こっか」
「うん!楽しみだなぁ、トロピカルランド」
車のドアを開けると、楽しげに笑うなまえがこちらを見る。
後部座席には怠そうに欠伸をする陣平ちゃん。サングラスのせいでその瞳は見えないけれど、その雰囲気は柔らかいもの。
穏やかな空気が車内を包む。
アクセルを踏むと流れていく景色。
助手席で他愛もない話をするなまえに相槌をうっていると、それを揶揄う陣平ちゃん。そんなあいつにムキになって言い返すなまえ。
昔から変わらないそんなやり取り。
失いかけたからこそ、その当たり前の大切さに気付く。
“宝物”
ずっと、ずっと、昔から近くにあった。
手を伸ばせば触れられるのに、壊してしまうのが怖かった。
でも蓋を開けてみればその“宝物”は俺が思うよりずっと強くて真っ直ぐで。
だからこそ大切にしたいと、心から思った。
「陣平ちゃんの馬鹿!」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ、ばーか」
「っ、はは!」
ガキみたいなやり取りをする幼馴染みの姿に思わず笑いがこぼれた。
「萩にまで笑われてんじゃん」
「研ちゃんは私の味方だもん、ね?研ちゃん!」
赤信号に引っかかっり、なまえが俺の腕を引く。その姿が可愛くて、くしゃりと頭を撫でる。
そんな俺達を見て呆れたようにふっと笑みをこぼす陣平ちゃん。
願わくば、この幸せが続きますように。
青く澄み切った空にそんなことを願うのだった。
Fin
prev /
next