▽ 1-4
それから季節がいくつか流れた頃。
父の東京転勤が決まった。
最初は単身赴任の予定だったが、私が頼み込んで家族全員で引っ越すことが決まった。
あの日のさよならから、私とヒロくんは定期的に手紙のやりとりをしていた。失声症、(この言葉は大人になってから知ったが)の彼に電話を強いるのは悪いと思い、手紙を送ったのが始まりだった。
日々の他愛もない出来事。クラスメイトの話や、最近流行りのテレビの話。色んな話を手紙に書いた。手紙の最後には、『ヒロくんは一人じゃないよ。大好きだよ』いつもそう書いて送った。その言葉は、幼い私が彼に伝えることの出来る精一杯だった。
私が引っ越すことが決まったと手紙に書いて送ると、その二日後彼から電話がかかってきた。
「もしもし!ヒロくん?」
「なまえ、久しぶりだな」
声を聞くのは久しぶりだった。
前よりも普通に話す彼。そういえば、手紙に少しずつ喋れるようになっていると書いてあった。私を心配させないようにという気遣いかと思ったが、それは真実だったらしい。
「ヒロくん声が戻ってる!」
「あぁ、前よりだいぶ良くなったんだ」
「・・・ゼロくんのおかげ?」
ヒロくんからの手紙によく出てきた、ゼロ。という名前。彼からの便りには、その子と出会って、「しゃべった方が楽しいぞ?」と言われたこと。それをきっかけに少しずつ話せるようになったことが書かれていた。
見たこともない、ゼロという子への嫉妬心なのか対抗心なのか。ヒロくんをとられたようで、少し不貞腐れたような言い方になった私をヒロくんは笑った。
「なまえも東京に来るんだろ?零とも仲良くなれるよ!」
「・・・・・・うーん・・・、そうなのかな」
「大丈夫、オレが保証する。早くなまえに会いたいな」
会いたい。その一言にきゅんとした。
私も早く会いたい。
両親は、私がヒロくんと同じ学校になるように家を探してくれた。一人娘の我儘に弱い父と、一人東京に行ったヒロくんを心配していた母。今思えば感謝しかない。
「ヒロくん!久しぶり!」
「なまえ!ちょっと背伸びたな!」
引越しの片付けも落ち着き、ヒロくんと会う約束をした。
最後に見た姿より背が伸び、頼もしさを帯びた姿に少し頬が赤くなる。
くしゃくしゃと髪を撫でてくれる優しい手の温度だけは、昔と変わってなくて思わず笑みが零れる。
「そいつが例の幼馴染みか?」
ヒロくんの後ろから聞こえた少しぶっきらぼうな声に思わず顔を上げた。
明るい金髪に、透き通るような青い瞳。
ニコニコと笑っているヒロくんとは対照的に、少し眉をひそめながら探るように私を見る男の子。
これが私と、降谷 零との出会い。
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