▽ 6-1
朝起きると、隣に零はいなかった。
きっと早朝から仕事だったんだろう。
まだ朝日が昇ったばかりだというのに、ベッドの空いたスペースは既に冷たい。
「・・・・・・夢じゃないんだよね・・・」
まだはっきりと覚醒していない頭で昨日のことを思い出しぽつりと呟くも、返ってくる言葉はない。
あんな風に声を荒らげた零を見たのは初めてだった。
それだけ私が無神経なことを言ってしまったのだろう。そんなことは重々承知だった。
ヒロくんのいないこの世界で、零を選ぶことができたらどんなに幸せなんだろうか。
そう思うと同時に、彼まで目の前からいなくなってしまったら私は生きていけるのだろうか。・・・・・・きっと無理だ。
「・・・・・・とりあえず仕事の用意しなきゃ」
ベッドから立ち上がりリビングへと向かう。眠気覚ましに水でも飲もうと、冷蔵庫を開ける。
「あっ・・・」
冷蔵庫の中には、お皿に置かれたサンドイッチが一人分用意されていた。ラップをかけられたそれの上には、小さなメモが一枚。
《ちゃんと飯食えよ》
走り書きのそのメモから伝わってくるのは、間違いないのない零の優しさ。
私なんかより忙しくて睡眠時間の少ない彼が、こんな風に私を気遣ってくれてる。それも昨晩あんな話をした後に。
いや、あんな話をしたからこそか・・・。
きっと彼は、私が朝からそのことで頭を悩ますところまで想像できていたんだろう。
「敵わないな、零には・・・」
そのサンドイッチを冷蔵庫から取り出し、一口かじるといつか作ってくれたそれを思い出す。
ねぇ、零。
私はどうしたらいいのかな。
ヒロくんのいない世界を一人では生きていけない。
でも零のことを傷付けたくない。
たとえ零がそれを許しても、私はやっぱり自分を許せないの。
だけど零を失うことも耐えられない。
矛盾ばかりだ。
こんな自分が・・・・・・
私は大嫌いだ。
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