カミサマ、この恋を | ナノ
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▽ 2-4



side H


なまえはオレにとって、大切な幼馴染みだ。

昔から「ヒロくん、ヒロくん」とオレの後ろをついてくる姿は可愛かったし、人付き合いがあまり上手じゃなかった彼女が自分だけに懐いてくれてるのは、なんとも言えない嬉しさもあった。


大切な幼馴染みから、特別な存在に変わったのはきっとあの日からだろう。


慌ただしく大人達が行き交う家の中で、なまえだけが隣にいてくれた。小さな手で一生懸命オレを慰めてくれた。



ずっと一緒にいる。そう言いきったなまえ。今思えば、子供の口約束だ。それでもなまえは、その約束を違えることなくずっとそばにいてくれた。


子供だったオレ達には、物理的な距離はどうしようもなかったけれどなまえはたくさん手紙をくれた。何度も書いては消してを繰り返して、一生懸命考えられたであろう手紙が届くことはオレの楽しみになっていた。たまに電話をしたら、弾んだ声で楽しげに話をしてくれる。聞き取りにくいはずのオレの声を、聞き取ろうと耳を傾けてくれる。


大切に思わないわけがなかった。


零と出会って、以前より前を向けたオレだったけれどあの日の事を夢に見て魘されることはあった。そんな日は決まってなまえと一緒に撮った写真を見た。満面の笑みでオレの隣に写るその姿を見ると、心が落ち着いたのだ。


東京でなまえと再会して、零と三人の時間が流れ始めた。


なまえと零は、お互いに素直じゃないからよく喧嘩をしていた。オレから見ればそれはじゃれ合いのようなもので、微笑ましかった。


三人で過ごす時間が好きだった。


月日が流れ、オレ達は中学生になった。元々の整った顔立ちに加え、大人っぽくなったなまえはオレの学年でも可愛いと話題になっていた。


なまえが告白されたと聞いたのも、一度や二度ではなかった。


「断ったよ!ヒロくんよりかっこいい人いないもん」


彼女がそう言って笑うのを見る度に、どこか安心してる自分がいた。


どんどん大人になっていくなまえが、自分の手から離れていくのが怖かった。なまえの笑顔が他の人間に向けられることを想像すると、胸の奥にドロドロとした感情が渦巻いた。


それは零に対しても同じで、二人のじゃれ合いを微笑ましく見ている自分がいるのと同時にオレには見せない表情を零には見せていることに嫉妬した。


いつの間にかオレのなまえへの気持ちは、幼い恋心から立派な異性への愛情へと変わっていた。


でもなまえがオレに向ける気持ちは、きっとそれと同じではない。あの屈託のない笑顔と、このドロドロとした気持ちが同じなはずがないのだ。


この気持ちをぶつけたらなまえを穢してしまいそうで怖かった。だからいつも気付かないふりをして、気持ちに蓋をしていたんだ。


「・・・ヒロくん・・・大好きだよ・・・」


腕の中にすっぽりと収まる小さな体。さらさらとした髪の毛からは、甘い香りがするのは気の所為なんだろうか。この距離感、潤んだ瞳で見上げられて紡がれたその言葉。ぐらりと自分の理性が揺らぐ。


何より大切にしたい気持ちと、自分だけのものにしたい気持ちが心の中でせめぎ合う。


「・・・なまえ。さすがにこの距離でそれ言われたら、オレじゃなかったら勘違いするよ」

僅かに残った理性で、邪な考えをぐっと押さえ込みオレを見上げるなまえの髪の毛を優しく撫でる。


「・・・・・・もん・・・っ」
「え?」
「私だってもう子供じゃないもん!ちゃんと好きの意味くらい分かってるもん」


ぷくっと膨らました頬。少し不貞腐れたようなその仕草は、可愛らしい以外の何物でもなかった。いや、それより彼女は今なんと言ったんだろうか?好きの意味・・・?


もしかして、と淡い期待が胸を過る。


「ヒロくんの事が大好き。今も昔も、ずっと大好きなの」
「・・・っ・・・」


真っ直ぐに告げられたその言葉に、頬が熱くなるのを感じた。


ずっとずっと大切だった女の子。


ずっと兄のように慕われていると思っていた。特別に思ってくれていることは知っていた。でもそれはあくまで家族愛のようなものだと思っていた。



「ヒロくん・・・は・・・?」


少し不安げにこちらを見るなまえ。


そんなの決まってるだろ。オレの気持ちは、ずっと前から同じだ。



「オレも好きだよ。ずっと昔からなまえの事が好きだった。オレの特別な女の子だよ」



この日からオレとなまえの関係に名前がついた。

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