続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 7-1



いつものように仕事を終え、スーパーで買い物を済ませ帰路に着く。辺りは夕焼けに照らされていて、キラキラとオレンジ色が光っていた。


昼過ぎに零くんから、ポアロのバイトが終わったら家に来るという連絡がきていたので片付けと晩御飯の用意に取り掛かる。


零くんの仕事が最近バタバタと忙しかったこともあり、早い時間に家に彼が来るのは久しぶりのことだ。



最近立て続けに色んな事件に巻き込まれていたせいで、こんな当たり前の日常がなんだかほっとする。


さすが米花町・・・・・、なんて昔思っていたことを思い出し一人でくすりと笑いがこぼれた。







「ただいま」


いつからだろう。


零くんがこの家に帰ってくる時、「お邪魔します」から「ただいま」に変わったのは。


玄関が開く音と共に聞こえてきた彼の言葉に胸の中が温かくなる。



「おかえりなさい」


晩御飯を用意していた手を止め、リビングに入ってきた彼に視線を向ける。


着ていたジャケットをハンガーにかけ、キッチン近くのダイニングテーブルの隣の椅子に腰を下ろす彼。


その雰囲気はいつもとどこか少し違っていて、それが気になり彼の近くに寄る。



「どうした?」


じっと顔を見つめる私に零くんは不思議そうな顔をして少しだけ首を傾げた。


少しだけ気だるげなその表情。よく見ると僅かに赤みのある頬。いつもに比べて少しだけとろんとした瞳。



これは・・・・・・。



彼の質問に答えるより前に、そっと額に手を伸ばす。




「・・・・・・・・・やっぱり」
「何がだ?」


こてんと首を傾げる彼の仕草に可愛らしさを感じなくもないが、今はそんなこと考えている場合じゃない。



「零くん熱あるでしょ!いつから体調悪かったの?」


彼の傍を離れ、引き出しの中に片付けていた体温計を探す。

ピッと電源を入れ、彼に手渡しながら問いかけると彼は小さく息を吐いた。



「・・・・・・今朝起きた時からだるいなとは思っていたけど、熱か」


はぁとため息をつきながら素直に渡された体温計を受け取る彼。


体調管理には人一倍気を配っている彼だが、こうも事件が立て続けに起こったり仕事が忙しくなったりすると体調を崩すのは無理もない。


それに加えて自分のこととなると無理しがちな彼だから、きっと今日も朝からその気だるさを押し殺していたのだろう。


ピピピッと体温計が鳴り、ちらりとそれを覗き見る。



[38.7℃]


「微熱どころか本気のやつだよ、これ」
「だな。久しぶりにこんな熱出たな」


当の本人はそれを見て呆れたように乾いた笑みを浮かべている。


だな。ってそんな他人事みたいな・・・。



「せっかく晩御飯用意してくれてたのに悪い。今日は帰るよ」
「え?」
「多分風邪だと思うし、なまえに移したらいけないだろ」


だるさの残る体で先程かけたハンガーラックへと近付き、上着を手に取ろうとする零くん。


その足元はどこかおぼつかなくて、体温計でその熱を実感したらどっとしんどさがきたようにも見える。


「待って。そんな状態で帰すの心配だし、明日の予定が大丈夫ならここで休んで帰ってほしい」
「けど・・・」
「けどじゃない!私マスクつけるから、零くんは向こうで休んでて。すぐにお粥作るから!」


彼の背中を半ば強引に押し、寝室の方へと押しやる。


家に置いてある彼の着替えを渡すと、素直にそれに着替えてベッドに横になる。


冷えピタを額に貼るとその冷たさが心地いいのか少しだけ彼の表情が和らぐ。


「すぐにお粥作るから、それ食べたら薬飲んでゆっくり寝てね」
「あぁ。悪いな、せっかく晩御飯用意してくれてたのに」
「そんなこと気にしなくていいから。ゆっくり休んでて?」


そっと彼の髪に触れる。そのまま髪を梳くと目尻が僅かに下がる。


思えば零くんが弱っているところを見るのは初めてな気がする。


むしろこの生活をしてて今まで体調を崩していなかったことの方がすごい。


初めて見るしんどそうな彼の姿に後ろ髪を引かれながらも、私はお粥を作るためにキッチンへと向かった。

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