▽ 6-10
検査が終わったのは昼を少し過ぎた頃で、病室で一息ついているとコンコンっと扉がノックされる。
私の返事を待って開けられる扉。
そこに立っていたのは、昨日もここにいた眼鏡の少年と同じく眼鏡のすらりとした細身の初めて見る男性だった。
「なまえお姉さん、大丈夫?学校が早く終わったからお見舞いに来たんだ」
ランドセルを肩からおろしながら、少年はベッド横の椅子へと腰かける。
たしかこの子は・・・・・・、
「・・・コナン君・・・・・・だよね?」
安室さんに教えてもらった名前を呼ぶと、彼の目がぱっと見開かれた。
「っ!思い出したの?!」
「・・・ううん、朝安室さんに教えてもらったの。昨日ここにいた人の名前とか関係とか」
コナン君が「そっか」と少しだけ肩を落とした。
「僕も自己紹介をしても大丈夫かな?」
ずっと黙ったままコナン君の隣に立っていた男性が口を開いた。
「沖矢昴。君の友人だ。ボウヤから君が事件に巻き込まれたと聞いて、一緒に見舞いに来たんだ」
彼はそう言いながらコナン君の隣に腰掛けた。
「沖矢・・・・・昴・・・さん。ごめんなさい、思い出せなくて・・・」
友人だという彼のことも全く記憶にない。それが申し訳なくて、思わず俯いてしまう。
「謝る必要なんてない。なまえが無事でよかったよ」
沖矢さんの手がぽんっと私の頭に触れた。
少し温度の低い男性らしい骨ばった手。でもその手からはたしかに優しさが伝わってくる。
「ゆっくり思い出していけばいいさ。それに記憶を失って一番不安なのはなまえだろう?そんなに周りに気を遣わなくていい」
私の心を見透すかのような彼の言葉。
思い出さなければ!と重圧に押しつぶされそうになっていた心が少しだけ軽くなる。
「ありがとうございます・・・っ」
私は彼に小さく頭を下げた。
「ところで安室さんは?もう帰ったの?」
隣でやり取りを見ていたコナン君が辺りをキョロキョロと見ながら言う。
「朝の検査の前に帰ったよ。お仕事って言ってたし、長い時間付き合わせちゃって悪いことしたな・・・」
「・・・・・・安室さんはなまえさんとの関係なんて言ってたの?」
「安室さんの働く店の常連だったんだよね?私。それで、えっと・・・蘭さん達とも親しくなってみんなでよく話したりしてたって。昨日は誰かが私に付き添うって話になったけど、皆色々予定があったから彼が残ってくれたって聞いたよ」
「・・・・・・そう」
どこか煮え切らない表情のコナン君。私の気の所為なんだろうか?
その時、ガタンっと扉が小さな音を立てた。
二人はその音に素早く反応して、扉を勢いよく開けた。
廊下に出てキョロキョロと辺りを見回していた二人だが、音の原因は分からなかったらしくすぐに部屋へと戻ってきた。
「大丈夫?」
張り詰めた空気の二人に声をかける。
「あ、うん!大丈夫だよ!それより同じ小学校の奴らもなまえお姉さんの事心配してて、お見舞いに来たいって言ってたんだ!なまえお姉さんとも仲が良かったから、また一緒に連れてきてもいい?」
コナン君の同級生か。
仲が良かったなら、会えばなにか思い出すかもしれない。
それに小さな子達に心配をかけていると言うのも胸が痛い。
「うん、大丈夫だよ。待ってるね」
「ありがとう!」
そんな私達を見ながら、昴さんは何かを考え込むような真剣な表情をしていた。
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