▽ 4-33
Another side
木陰から無事脱出した彼らが岸へとたどり着くのを見ていた俺は、あの男がなまえちゃんに駆け寄る姿を見た。
「まったく、美味しいところを持っていきやがって・・・」
そのとき、背後でカチャリと銃の安全装置を外す音がした。チラリと背後を見るとチャーリー警部がこちらに銃を向けていた。
ああ、忘れてた。
やれやれと思いながら両手を上にあげる。
「まだ分からないことがある。説明してもらおうか?なぜ初めから犯人を知っていた?そして泥棒であるはずのお前が<ひまわり>を守った理由はなんだ?」
その言葉にふっと笑みがこぼれる。
「音声メッセージで依頼があったんだよ。二枚目と五枚目の<ひまわり>を盗んで欲しいって」
「なるほど・・・。変装が得意なお前なら、声を聞くだけでその声が誰のものか分かるということか」
「さすが、話が早いな、チャーリー警部」
「だが何故、犯人の妨害をする必要があった?お前になんの得がある?」
「<芦屋のひまわり>をどうしても見せてやりたい人がいたんだよ」
「見せたい人?」
不思議そうにこちらを見るチャーリー警部に、寺井ちゃんから聞いたあの女性の話を伝える。
「なるほど・・・、これで全ての謎は解けた」
チャーリー警部は構えていた銃を静かにおろした。
「いいのか?捕まえなくて」
「今回だけは見逃してやる」
その言葉を残し立ち去ろうとゆっくりと歩き出したチャーリー警部が、ふと足を止めてこちらを振り返った。
なんだ?まだ何かあったか?
「ひとつ聞きたいことがある・・・・・・・・・。あの安室という男は何者だ?ただの探偵じゃないだろう」
あぁ、なるほど。
たしかにそれは俺も同感だ。
「・・・・・・さぁな、その答えは俺にも分かんねーよ」
「彼といたあの女性も何やら君と親しげだったが・・・?」
恐らくそれはなまえちゃんのこと。
この男になまえちゃんと俺の関係を知られるのは得策ではない。
「紳士たるもの、女性にはいつも優しくあるものですよ。特別彼女だからというわけではありません」
にっと口の端に笑みを浮かべながらそう伝えると、「・・・・・・そういう事にしておこう」と彼も同じく笑った。
お互いに背中を向けて歩き出す。
「あんたのこと、勘違いしてたぜ。チャーリー警部」
その言葉にチャーリー警部が振り返った時、そこにもうキッドの姿はなかった。
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