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Another side (2/2)
<ひまわり>はそのまま警備室に運び込まれ、鑑定が行われた。
「キッドが犯行時刻を偽るなんて今までなかったのに・・・・・・」
その様子を見ながらコナン君が小さな声で言った。
「今までのキッドなら考えられないことだね」
俺の言葉にコナン君は頷く。
確かにキッドはいつも予告状を出して、その通りに盗みを働いていた。そんな男がどうして今回に限って・・・・・・。
「ヤツは所詮泥棒・・・・・・。そんなヤツに何を期待しているんだ?ヤツは盗むためならなんだってするだろう、たとえそれが殺人だったとしてもな」
壁際で話していた俺達の隣に、チャーリーがいつの間にか立っていた。
彼の言葉からはひしひしとキッドへの、そして犯罪への嫌悪感が伝わってくる。
「たしかにそうかもしれませんが、今までのキッドとは違う。それは間違いないと思いますよ」
俺の言葉に少しだけ眉をよせた彼は、じっとこちらを探るように見た。
「君は毛利さんの知り合いなのか?」
「えぇ、毛利先生の助手をさせていただいてる探偵の安室 透と申します」
「・・・・・・探偵、ね」
そう言い残すと彼は鑑定をしている<ひまわり>のそばへと向かった。
鑑定が終わったが、ここでは偽物かどうかの正確な判断はつかないらしく宮台らが自社の工房での鑑定を館長に申し出る。
「偽物とすり替えられた可能性が高いとなれば、上層部からもすぐに許可を得られるでしょう」
「その必要はありませんよ、館長」
彼女の提案を了承した館長の言葉を遮るように、奥にいた警備員が突然館長に近づく。
口々にその警備員を止めようとする周りの人々を嘲笑うように、彼は館長に近付くとニヤリとしながら手に持ったカードを見せる。
そこに描かれているのはキッドマーク。
そのままキッドはカードを館長の胸ポケットに入れ、ポンポンと軽く叩く。
まさかこの鑑定自体がキッドのトラップだったということなのか・・・・・・?
「その<ひまわり>は間違いなく本物です。私が保証しますよ!」
「っ!!」
館長を突き飛ばしたキッドはそのまま自身の制服に手をかける。
「・・・・・・っ!」
その手が制服を脱ぎ捨てると、現れたのは純白のスーツに身を包んだ怪盗キッド。
彼との距離を詰めようとした瞬間、キッドはトランプ銃をとりだし立て続けにモニターに発砲する。破壊されたモニターの破片がそこら中に降り注ぎ煙が上がる。
<ひまわり>の近くにいた宮台と、東の体にワイヤーが巻き付く。
「東さん!宮台さん!大丈夫?!」
コナン君は二人に近寄りながら声を掛ける。
二人は縛られただけで怪我はしていない。
今心配すべきなのは・・・・・・、
「<ひまわり>を盗られた!」
「キッドを捕まえて!」
二人の声を聞くとほぼ同時、キッドが煙玉を机に向かって投げる。
視界を奪われ、周りの人達はゴホゴホと咳き込む。
「待て!キッド!」
キッドを追いかけ部屋を飛び出したコナン君と共に、俺も部屋出てキッドを追いかける。
犯行予告の通り夜に<ひまわり>を盗み出したキッド。彼が向かうのはきっと屋上だろう。
コナン君と共に屋上への階段を駆け上がる。俺達の後ろから足音が聞こえてきて、振り返るとチャーリー警部だった。
階段室の扉を開けて屋上に出ると、警視庁のヘリコプターが屋上を明々と照らしていた。
不敵な笑みを浮かべ、指を鳴らすキッド。
破裂音と共にキッドの周囲が煙に包まれる。
「マズイ!逃げられる!」
コナン君のその言葉を聞いたチャーリー警部が咄嗟に胸ポケットに手を伸ばす。
「・・・・・・・・・っ」
その仕草に思わず自身の眉間に皺がよったことに気付く。
「くそ!銃さえあれば・・・・・・!」
小さくこぼれた彼の言葉に、やはりと確信に変わる。
煙が掃けると、ダミーのハンググライダーがいくつも飛び立っていく。そして最後にキャンパスを持った本物のキッドが夜空へと飛び立つ。
空に逃げられてはもう現状ではどうすることもできない。
それこそ、チャーリー警部の言うように拳銃で発砲して彼を止めるしか方法はないだろう。
もちろんここは日本、彼が銃を所持しているはずがないし、俺も常時携帯しているわけがなかった。
「無理だよ・・・もう・・・」
小さくなっていくキッドの姿を見ながらコナン君が呟いた。
*
予告状通り、夜に<ひまわり>を盗み出したキッド。彼の狙いはなんなのか。
再び美術館の応接室へと集まった俺達は、キッドが館長の胸に残したカードの文面を読む。
『先ほど頂いた<ひまわり>を格安の百億円でお譲りします。二時間後、東都プラザホテル一四一二ゴウシツでお会いしましょう。お金は全て旧券でベッドの上にケースから出して置いておいといてね。無理なら取引しないよ♪ 怪盗キッド』
「二時間後に百億だとぉーーー!」
カードを読み上げた中森警部は、わなわなと肩を震わせる。
その文面に中森警部の隣の毛利さんや次郎吉さんは、うーんと納得がいかないような仕草を見せる。
宝石しか狙わないキッドが今回は絵画を盗んだ。その上金銭を要求してきている。キッドらしからぬ行動だ。
それに百億円をどうやってホテルから運び出すのか。スーツケースから出しておいて欲しいというのも理解しかねる。
そんなことを考えている間に、次郎吉さんと館長の間で鈴木財閥が百億円を用意することと、その見返りに美術館側が<ひまわり>を展覧会に貸し出すことが決まる。
話が決まれば時間がないので、一同はそれぞれ用意を始める。俺達は、そのままホテルへと向かう。
「行くぞ、運転頼む」
「はい!もちろんです」
部屋を出る毛利さんとコナン君の後ろにつづく。
その時中森警部と次郎吉さんがチャーリー警部に声をかけているのを視界の端に捉えた。
「お主も先に行くのか?チャーリー」
「いえ、私は大切なものをとりに」
「大切なもの?」
中森警部のその質問に、チャーリー警部はドアの前で立ち止まり小さく頷く。
「キッド逮捕に欠かせないものです」
その言葉に彼が屋上で見せた、空のホルスターを思い出す。
「安室さん?大丈夫?」
そちらに意識を取られていた俺をコナン君が下から見上げていた。
「・・・・・・あぁ、大丈夫だよ。行こうか」
俺達は足早に少し前を歩く毛利さんを追いかけた。
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