▽ 2-1
今日は店長が不在だったこともありバイトが終わる時間が遅かった。外に出ると辺りは真っ暗。周りの店もお酒を扱う店がちらほらと空いている程度。
時計を見るとちょうど二つの針が真上を少し過ぎた頃。
早く帰らなきゃと思いながらも、足は家と反対方向の少し離れた公園へと向かう。
途中でコンビニに寄って、しばらく歩くと見えてくる小さな公園。
そう、ここに来るのが最近の日課のひとつである。
「にゃー」
いつものようにベンチの裏の茂みを覗き込むと、こちらを警戒しながらも近付いてくる茶色と白のまだら模様の猫。
「ご飯遅くなっちゃってごめんね」
その猫に話しかけながらコンビニで買った猫缶と、カリカリのドライフードを少しお皿に出してあげる。
私が二、三歩後ろに下がると恐る恐るそのご飯を食べる猫。そのお腹は少し前よりも膨れていた。
出会いは一ヶ月ほど前。たまたま通りかかった公園で見つけたこの子。その時はボロボロに痩せていて、保護しようと思って近づいたけれど警戒心が強く捕まえることが出来なかったのだ。
いけないと思いつつも、どうしても見捨てることが出来ずこうしてご飯だけをあげている日々。
ほんの少しだけ距離が縮まったある日、近くで見たその猫のお腹が膨れていることに気付いたのだ。
「子猫ちゃんが生まれたらママも一緒に保護させてくれないかなぁ」
さすがに毎日こうして餌だけをあげているのがよくないこともわかるし、いつ事故に巻き込まれるかも分からない。できるなら早く親子で保護してあげたい。
そんな思いを知ってか知らずか、猫は一心不乱にご飯をもぐもぐと食べていた。
そんな姿をベンチに座りながら見ていると、少しおぼつかない足取りで公園へと入ってくる人影が視界の端に映った。
街灯の少ないこの公園、その影の持ち主は私に気づいていないようで隣のベンチへと腰掛けた。
「・・・っ、たく。あのガキ手加減ってもんを知らねーのかよ」
小さく呟かれたその言葉。
聞き覚えのあるその声。薄明かりの中目を凝らして隣のベンチを見る。
「・・・・・・っ!」
思わず息をのむ。そこにいたのは、何故かボロボロの姿の怪盗キッド。いや、黒羽快斗といったほうが正しいのだろうか。
いつもの怪盗キッドの真っ白な姿ではなく、ところどころ破れたバイクジャケットのようなものを着ている彼。
そういえば、今日は怪盗キッドの予告の日だったっけ。
「・・・っ、びっくりした!お姉さんこんな時間に一人で何してるの」
彼も私の気配には気付いていなかったようで、こちらを見ながら目をぱちぱちとさせる。
そんな彼の少し大きな声に驚いたのか、猫がびくりと体を縮こまらせた。
「あっ、ごめんね。びっくりしなくて大丈夫だからゆっくり食べていいよ」
意識がキッドから猫へと移る。私の後ろにいた猫の存在に気付いたキッドが、そろりそろりと隣に腰掛け猫を覗く。
「こいつに飯やってたの?」
「あ、うん。この子お母さんみたいなんだけど、保護できるほど人馴れしてなくて・・・」
「たしかに腹がでけーな」
私とキッドが近づいて来ないとわかり安心したのか、またご飯を食べだした猫を二人で見つめる。
肩が触れるほど近くにいるキッド。その横顔をちらりを見ると、頬には小さな擦り傷。
今日の事件の時にでも怪我したのかな・・・。
「・・・・・・あの、よかったら絆創膏つかってください」
その傷が痛々しくて、鞄の中から絆創膏を取り出し彼に手渡す。
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