続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 8-27


爆発と共に爆風を利用して、車で向こうのビルに飛び移る。


言葉で改めてそれを聞くと足が震えそうになる。


零くんがマスタングの後部座席に如月さんを運んでいる間に、コナン君がこれからやろうとしていることを説明してくれる。


正直怖かった。けれどそれをコナン君の前で見せるわけにはいかない。


それになにより、零くんやコナン君がそれしか方法がないというのだから本当にもうそれしか手段がないのだろう。


零くんに呼ばれ、運転席に座る彼の隣に座る。コナン君も後部座席に座った。


爆弾のタイマーと自分の時計を見ながら時間を確認していた零くん。私が車に乗り込むと、こちらに視線を向ける。



「絶対に守るから」


たった一言。


彼のその言葉で手の震えが止まった。



「よし、一分前だ。コナン君もしっかり捕まってるんだよ」

零くんは、そう言うとエンジンのキーを回した。


エンジンがなり、マフラーから野太い排気音が轟く。



「十、九、八、七・・・・・・」


時計を見ながら時間をカウントする零くんの声だけがフロアに響く。


零くんが思い切りアクセルを踏み込む。


「六、五、四、三・・・・・・」



タイヤが悲鳴を上げ、車は尻を沈ませて急発進した。

展示台を駆け下り、白煙を上げながら猛スピードでパーティ会場を突っ切っていく。



「二、一、ゼロ!!!!」


ガラスを突き破ると同時に、背後で閃光がほとばしる。

すさまじい爆音が轟き、強烈な爆風が押し寄せる。


その閃光に目が眩んだのは一瞬のことで、私の視界はガラスを突破ってすぐになにかに覆われた。


「・・・!」
「じっとしてろ。大丈夫だ!」


零くんが私の頭を庇うように抱きかかえてくれていることに気付いたのは、爆発の匂いに混じって、いつもの彼の優しい香りがしたから。


私も彼のシャツの胸元をぎゅっと握った。



激しい衝撃と共に、車はB棟のプールへと着水した。


着水の衝撃でプールに大きな水しぶきがあがり、大波がプールサイドまで押し寄せた。



「みんな無事か?!」

毛利さんや目暮警部達が水浸しになったプールサイドへと駆けつける。そしてそのすぐ後ろから蘭ちゃんや園子ちゃんも駆け寄ってくる。



「みんな無事だよ!!」

車から降りたコナン君が皆に向けて手を振るのが横目で見えた。



「怪我してないか?!」

零くんは私を抱きしめていた腕を緩めると、そのまま両肩をばっと掴んだ。

心配そうにこちらを見る彼の顔には、きっとさっきの爆発の時についたであろう傷がいくつかあった。


本当にこの人はどこまで優しいんだろう。

自分の方が私より怪我をしているのに。


その姿がいつかの彼と重なって、くすりと笑顔がこぼれた。



「私は大丈夫だよ。安室さんの方が怪我してる。大丈夫?」
「大丈夫だよ。ちゃんと着水できてよかった」


零くんに支えられながら車から降りる。

私達の元にやって来た蘭ちゃん達は、涙を浮かべながら無事を喜んでくれた。



「本当になまえさん達が無事でよかったですっ!」
「連絡橋が落ちた時は、どうなるかと思ったもんね」
「心配かけてごめんね。ありがとう」


蘭ちゃん達の背中をぽんぽんと叩くと、二人はくしゃくしゃの笑顔をこちらに向けてくれた。


零くんは少し離れた場所で目暮警部にパーティ会場での出来事を聞かれているようだ。


代わる代わる私達の無事を喜んで声をかけてくれる人達。


もみくちゃにされそうになった私は、少し離れた場所で出入口の近くの壁にも垂れながらふぅと小さく息をついた。








「無事に脱出できてよかったわね、子猫ちゃん」

壁越しに聞こえてきた声。


私に向けられているはずのその声だが、周りにそれらしき人はいない。


出入口の近くということもあり、人通りの多い場所。キョロキョロと当たりを見回してみるが、声の主は見つからない。



“子猫ちゃん”なんて呼ばれたことはないし、心当たりもない。


気になった私は、声のした方。出入口を出て左右を見るもそこには誰もいない。



けれどその代わりにふわりと香った嗅ぎ覚えのある香り。



「・・・・・・この匂い・・・っ」



「なまえ?何かあったのか?」

目暮警部との話を終えたであろう零くんが、出入口からひょこりと顔を覗かせる。


「・・・・・・ううん、大丈夫!ちょっと人混みに疲れただけ」
「とりあえず今日は病院だけ寄ったら帰っていいらしい。事情聴取はまた後日らしい」
「そっか。本当にみんな無事で良かったね」


そんな会話をしながら毛利さん達の方へと戻る私達。


みんなが助かったことは嬉しい。


組織が狙っていた哀ちゃんも無事だ。

きっと彼女の正体もバレていないだろう。



けれど心にぽつりと黒いシミを残したさっきの言葉。


あそこに残された嗅ぎ覚えのある香り。



それはいつかの零くんから香った、あの甘い薔薇の香りだった。

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