続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 9-1



ツインタワーの事件の数日後。

事情聴取を終えた私は、零くんと共に家に帰ってきた。


事情聴取で車で飛び移るのは無茶をしすぎだと注意を受けた零くんだったが、最終的には全員無事でよかったと目暮警部も優しく笑ってくれた。


結局爆発の真相は闇の中。

証拠も何も残っていないので、これ以上の捜査は難しいだろうと零くんが帰りの車の中でボヤいていた。







「この前の話なんだけどさ、」

少し遅めの夕食を終え、ソファで一息ついていると零くんが真剣な表情で口を開いた。


その声色に、私は流れっぱなしになっていたテレビを止め彼の方へと向き直った。


「この前のツインタワービルでなまえがビルに取り残されてるって教えてくれた人についての話だ」

私自身もずっと頭の隅でひっかかっていたその存在。

そしてあの日私のことを“子猫ちゃん”と呼んだあの存在。


この数日間、私なりに色々な可能性を考えて辿り着いた一つの答え。


零くんと一緒に過ごす時間が長くなるにつれて、あの香りが彼から漂ってきたのは一度や二度ではなかった。

それだけその人は彼とよく会っているということ。


勝手なイメージだが、公安の仕事絡みの女性があんな香りを残すとは思えなかった。


となれば残るは探偵業の依頼者か、組織絡みの人間。


何度も繰り返し会うとするなら組織の人間の方が可能性が高い気がした。


そこまで考えて浮かんだ一人の人物。




「・・・・・・・・・・・・ベルモット」

私が小さく呟いたその名前に、零くんは大きな目をいつも以上に見開いた。


青い澄んだ瞳がじっとこちらを見る。


「知ってたのか?」
「彼女が組織の人間ってことは元々知ってたの。でも零くんが言ってた人が彼女だとは知らなかった。もしかしたら・・・って思っただけ」
「そうか・・・。なんであの女がなまえのことを助けようとしたのかわからないんだ」


零くんは腕を組みながら眉間に皺を寄せながら、あの日の彼女からの電話の内容を話してくれる。


“彼を助けてくれたお礼”


その言葉で浮かぶのはあの連絡橋で私がコナン君の背中を押し、彼をB棟へと逃がしたこと。


コナン君や蘭ちゃんのことを大切に思っている彼女のことだ。そのお礼で私は命を救われたらしい。


「・・・たぶんそれは私があの連絡橋でコナン君のことを助けたからだと思う」
「コナン君を?」
「うん。爆発に巻き込まれそうになったあの子の背中を押したの。たぶんそれを見ていたんじゃないかな?」
「お礼ってそういうことか・・・。ホントにあの人は何を考えてるのか分からないな」



はぁ、と深いため息をついた零くん。


そしてぽつりぽつりと話し始めた。


「ここ最近、あの女になまえのことで時々揶揄われてたんだ」
「揶揄う?」
「ベルモットは良くも悪くも個人主義。仕事さえこなしていれば、俺のプライベートになんかそこまで興味はないはずなんだ。なのになまえが俺にとって特別なんじゃないかって勘づいたらしくてたまに話題に出てきていた」
「っ、ポアロとかで一緒にいる時間が長かったからバレたのかな・・・」


自分の行動が零くんの邪魔をしたんじゃないかと、不安な気持ちが胸を覆う。


そんな私の胸の内なんて見透かすように、零くんはくしゃくしゃと私の頭を撫でた。


「なまえのせいじゃない。あの女が変なところで鋭いだけだ。それに今もなまえのこととなればいつもとは違う俺を見て楽しんでるだけだ。そんなに深刻に考えなくていい」
「・・・でも・・・」
「あのパーティの前も、子猫ちゃんには首輪をちゃんとつけとけなんて言って笑ってたよ」


呆れたように笑った彼の言葉に、はっとする。



子猫ちゃん。


やはりあの時、私をそう呼んだのはベルモットだったんだ。



「・・・なまえ?大丈夫か?」

黙り込んだ私に違和感を感じたのか、ひらひらと私の前で手を振った。


「っ、うん。ごめん、ちょっと色々考えてただけ!」

慌てて表情を取り繕った私に零くんが気付かないわけがない。

彼は私が組織のことに関わることを嫌がる。私の存在が組織の人間にバレたことに負い目を感じていると思ったんだろう。


そっと私の右腕を引くと、そのまま彼の腕の中に引き寄せられた。


「なまえは何も気にしなくていい。俺が一緒にいたくてそばにいるだけだ。ベルモットにバレたことも今の所なにも問題はない。彼女からしたら俺を揶揄ういいネタを掴んだくらいのもんだ」
「・・・・・・」
「だから今まで通り傍にいてくれたらそれでいい。なまえには笑っていて欲しいんだよ」


ぽんぽんと宥めるように私の背中をリズム良く叩くその手が心地よかった。


しっかりとしたその肩口に頭を預けていると、全てを彼に委ねて甘えたくなる。



「・・・・・・好きだよ、零くん」

小さく呟いたその言葉が零くんに届いたかどうかはわからなかった。

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