続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 8-3



翌日、零くんの車で毛利探偵事務所へと向かった私達。


近くに車を停めて事務所への階段を上がっていると、何やら騒がしい声が聞こえてくる。


零くんと顔を見合せながら、探偵事務所の扉を開けるとそこには蘭ちゃんと園子ちゃん、そして肩をすぼめてしゅんとしている毛利さんの姿があった。


「おはようございます。どうかされたんですか?」

零くんが蘭さんに尋ねると、彼女は毛利さんをちらりと一瞥した後、口を開いた。


「お父さんが私に隠れてコソコソ女の人に会いに行こうとしてたんです」


状況がいまいち飲み込めない私と零くんは、こてんと首を小さくかしげた。


「だからそんなんじゃねぇって言ってるだろ!美緒君は大学の時のただの後輩だよ!」
「じゃあ何で隠れてコソコソしてたのよ!」
「それはだなぁー・・・」


親子のそんなやり取りを見ていた私達に、園子ちゃんが詳しく状況を説明してくれた。


毛利さんの大学の後輩の常磐美緒さん。最近西多摩市にできたツインタワーのオーナーらしい彼女。

彼女が来週のビルのオープン前に、特別に毛利さんをそのビルへと招待したらしい。

お誘いの日の当日。それを蘭ちゃんに黙っていた毛利さん。不審に思った蘭ちゃんが問い詰めて発覚して、朝からこの有り様らしい。



「常磐美緒さんって常磐財閥の令嬢でまだ独身なの。それに美人って噂だし、蘭としては心配みたいなのよね」

揉めている親子を横目に見ながら、園子ちゃんは小さく息を吐いた。


なるほど。
そういうことなら蘭ちゃんが心配するのも無理はない。


「ではこうしませんか?」

話を聞き終えた零くんが、ぱんっと手を叩く。

その言葉に視線が彼に集まる。



「僕達も一緒について行ってもかまいませんか?蘭さんもそれなら安心でしょう」
「何ぃー??」
「蘭さん、いかがですか?」



大きな声を上げた毛利さんの言葉はスルーされ、あれよあれよと全員でそのツインタワーに行くことが決まる。


これ私もついて行ってかまわないのかな・・・。


不安になった私は、隣にいた零くんの服の裾を少し引いた。


「私もついて行って平気なのかな?」

私に視線を向けた零くん。彼が口を開く前に、その隣にいた毛利さんが口を開いた。



「かまわねぇよ。蘭達が着いてくるならもう全員で行ったって同じだ。それになまえさんとはゆっくり話してみたかったしな」

諦めたかのように、トホホと笑う彼の後ろ姿を見ると少しだけ可哀想な気もしたが、今回は言葉に甘えてもいいらしい。


「毛利先生もあぁ言ってくださってることですし、行きましょうか」

人当たりのいい安室さんの笑顔。


なんか久しぶりにこの笑い方の零くんを見た気がする。


そんなこんなで私達は五人で西多摩市のツインタワーへと向かうことになった。






ツインタワーへと向かう道すがら。毛利さん達三人はレンタカーで現地まで向かうそうなので、私達二人は、零くんの車で向かっていた。


毛利さんの車の後ろをついて走る車内で、園子ちゃんの言葉が頭の中を過る。


「何考えてるんだ?」

黙ったまま右から左に流れていく景色を窓越しに眺めていた私に零くんが声をかける。


「常磐美緒さんってどんな人だろうなーって考えてた」
「常磐財閥の令嬢だったか。そんな人がわざわざオープン前に毛利さんを招待するなんて何かあるのかもしれないな」
「だから一緒に行くって言ったの?」
「あぁ。少しだけ気になってな」

零くんが毛利さんと一緒に行くことを提案した真意はどうやらそこらしい。

ぽかんとしている私の顔をちらりと横目で見た零くん。


「なんでそんな変な顔してるんだ?」

変な顔とは心外だ。

私の心の中には気付かない零くん。


「・・・・・・美人って聞いたから着いてくのかなって思った」


昨日ふわりと香ったあの甘い匂いのせいだ。こんな風にありもしないことに嫉妬してしまうのは。


子供みたいな嫉妬心を口にした私を見て、零くんは驚いたように目を丸くした。そしてすぐに小さく笑う。



「ははっ、そんなこと考えてたのか?」
「・・・・・・だって」


ケラケラと笑う彼。ちょうど信号に引っかかり、彼の視線がこちらに向く。


「俺はなまえだけで手一杯だよ」


ずるい。


そんな優しい瞳でそんなことを言うなんて。


ハンドルを握っていた左手が私の頭をぽんぽんと撫でる。


「私は美人じゃないもん」


素直になれない私は、ふんと彼から顔を背けてしまう。


そんな私を見た彼は、そのまま左手を私の頭の後ろへと滑らせた。そしてそのまま自分の方へと引き寄せる。


「・・・っ!」


そっと頬に触れたのは彼の唇。


その感触に驚いて、ぱっと彼の方へと視線を向ける。



「可愛いよ、なまえは。誰よりも」


頬に熱が集まるのが自分でも分かった。


昨日の甘い香りとか、さっきの園子ちゃんの言葉とか、前に毛利さんの車がいることとか、全てのことが思考から追い出されて目の前の彼しか見えなくなる。



「俺ばっかり妬いてる気がしてたからたまにはいいな」

ニヤリと少しだけ意地悪な笑みを浮かべた彼。青になった信号を確認してアクセルを踏む。


ツインタワーに着くまでの間、熱を帯びた頬を冷まそうと、私はぱたぱたと顔を手で仰いでいた。

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