▽ 1-1
ばたんとソファに倒れ込みながら時計を確認すると、短針が11の字を指すところだった。珍しく日をまたぐ前に帰ってこれたというのに、部屋で待っているはずのなまえの姿はない。
そう言えば今日は職場の飲み会だと連絡がきていたことを思い出し、携帯を取り出す。そこに彼女からの連絡はなく、恐らくまだ飲み会を楽しんでいるのだろう。
こんな時間まで・・・、と心配に思う気持ちもあるけれど彼女も立派な大人なわけで、必要以上に制限をかけるのもおかしいだろう。
“遅くなるなら迎えに行く”
メッセージを送り、携帯を伏せると疲れからか睡魔が襲ってくる。
連絡があるまで少し眠ろう。そう思った俺は、迫りくる睡魔に身を任せた。
*
カチャカチャと玄関の扉が開く音で目が覚めた。引きずるような足音が聞こえたかと思うと、「ただいま〜」と言うなまえの声が聞こえてくる。
いつもより少し高い声の彼女は何やら上機嫌のようで、鼻歌交じりにリビングの扉を開けた。
「零くん帰ってきてんだ〜!おかえり〜!」
「・・・飲みすぎだろ」
「えへへ〜、そんなに飲んでないよ」
フラフラとした足取りでソファの横までやってきたなまえは、鞄を机に置くと床にペたんと座り込む。
とろんとした瞳に、いつもより紅潮した頬。そしてずっとにこにこと笑みを浮かべているその表情から、彼女が随分と酔っ払っていることは言うまでもない。
「酔っ払いに限って飲んでないって言うんだよ」
「ほんとにちょこーっと飲んだだけだもん」
そう言いながら僅かに乱れた前髪を直してやると、擦り寄るようにその手に頬を寄せるなまえ。
「冷たくて気持ちいい〜」
甘える仕草を見せる彼女を可愛いと思ってしまうのは、惚れた弱みなんだろうか。無意識のうちに自分も彼女につられて笑みを浮かべていることに気付く。
「とりあえず水飲め。持ってくるから」
「やだ!」
「・・・っ、おい」
立ち上がろうとした俺に抱き着いてきたなまえ。予想していなかったその衝撃に、ぐらりと体が傾く。咄嗟になまえを下敷きにすることがないように庇ったせいで、二人してソファへ逆戻りする。
「馬鹿。急に飛びつくなよ」
「零くんなら支えてくれると思ったんだもん」
「ったく・・・」
仰向けでソファに倒れた俺の上でにこにこと笑うその姿に、毒気を抜かれた俺はそのまま彼女の腰に手を回す。
「重い?」
「重い。太ったか?」
「・・・なっ!ひどい!変わってないもん」
「冗談だよ。重くなんかない」
くるくると変わるなまえの表情は、いつ見ても飽きない。そんなことを考えていると、なまえがぺたりと俺の胸に顔を寄せる。
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