▽ 1-5
その後しばらく会話を楽しんだ後、蘭ちゃん達と別れ自宅へと戻ってくる。
先程までのモヤモヤがまだ残っているせいか何もする気になれず、ソファに座りただ時間が過ぎるのを待つ。
*
ガチャ
玄関の鍵が開く音がして、足音がリビングへと近づいてくる。
「ただいま」
「・・・・・・おかえりなさい」
安室さんから零の表情に戻った彼が私の隣に腰掛ける。
「ごめんね?仕事の邪魔するつもりはなくて・・・本当にたまたま・・・」
しばらく続いた沈黙に耐えれなくなった私が口を開く。
「そんなことは分かってるし、気にしてない」
「もう行かないように・・・「どうだった?安室透はなまえの望む優しい男だっただろ。・・・・・・随分と俺に不満があるみたいだし、安室透の方が良かったんじゃないのか?」
「それは・・・っ!」
零の声がいつもより低く思わず声が詰まる。
「ニコニコ笑って優しい男がいいんですよね?なまえさんは」
口元に笑みを浮かべながらそう言う彼。
こんなの望んでたわけじゃない・・・。
「・・・ことない」
「え?」
「そんなことないもん!私が好きなのは安室さんなんかじゃないもん・・・」
うまく気持ちを言葉にできないもどかしさからか目に涙が溜まっていく。
泣きたくなんかないのに・・・。
「・・・はぁ、ごめん。今のは俺が言い過ぎた」
「・・・っ、・・・零の馬鹿っ・・・」
涙をこぼす私をそっと自分の方へと引き寄せる彼。
「ただちょっと零に優しくして欲しかっただけだもん・・・!なのに安室さんの方がいいとか・・・っ・・・そんなの言ってない!」
そんな彼の胸に顔をうずめながら、ぐずぐずと話す私の頭をそっと撫でる零。
「俺も言い方が悪かったよ・・・。ただあんな風に愚痴をこぼすなまえを見て、少し腹が立っただけだ」
「・・・っ、それはごめん・・・っ・・なさい」
「ん。俺は安室透みたいに優しくはできないし、映画みたいな台詞も言ってやれない」
ひとつひとつ言葉を選びながら話す彼。
「でもその分態度で示してるつもりだ。それはわかるか?」
「うん・・・、わかる」
そんなことはずっと前からわかってた。
そもそも今回のことだって私の我儘が原因なんだ・・・・・・。
そんなことを思うとまた涙がこぼれそうになる。
「はぁ・・・、一回しか言わないからな・・・」
小さくため息をつくと、そっと私の体を離してコツンとおでこを合わせる。
睫毛が触れ合いそうな至近距離。
そのまま真っ直ぐに私の瞳を見つめる彼。
「好きだ。今までも、それにこれからも。ずっとそばに居てほしい」
「・・・・・・は・・・い・・っ・!」
「馬鹿、なんでまた泣くんだよ」
私の瞳からポロポロと流れ落ちる涙を、少し笑って拭う零。
映画みたいな甘くて優しい台詞じゃない。
安室さんみたいにいつでもニコニコ笑ってるわけじゃない。
それでも普段気持ちを言葉にしない零が、一生懸命伝えてくれた想い。
それは今まで聞いたどんな言葉よりも私の心を幸せでいっぱいにしてくれた。
Fin
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