▽ 1-4
「・・・えっと・・・、送ってくれてありがとうございました」
無言で安室さんに引っ張られながら歩くこと数分。
私の住むマンションの下につくと、ずっと掴まれていた腕がそっと離される。
「・・・・・・なまえさん、少しお邪魔しても大丈夫ですか?」
「あ、はい!もちろん大丈夫です」
「ありがとうございます」
安室さんが家に上がって行くなんて珍しい。送ってもらったことは何度があっても、彼が家まで上がることは数えるくらいしかなかった。
「ちょっと待っててくださいね、部屋の中少し片付けてきます」
部屋の扉の前でそう伝え部屋の鍵を開ける。
ガチャという音ともに扉を開け一歩踏み出すと、外で待ってくれると思っていた安室さんが私を追うように体を滑り込ませる。
「安室さん・・・?少しだけ待っててもらえ・・・・・っ!!」
二人が部屋に入り扉が閉まると、私の体は彼の腕の中にすっぽりと収まっていた。
突然の出来事に頭の中が真っ白になり、言葉が続かなくなる。
「・・・・・・安室・・・さん?」
「・・・・・・ですか?」
「え?」
「僕の送迎を断った理由は彼ですか?」
小さく呟かれた言葉。
もしかして沖矢さんに会うから、安室さんと帰れないって言ったと思われてるのかな・・・。
「違いますよ!沖矢さんとはたまたま会って相談にのってもらっただけで・・・」
「相談?」
「・・・はい、大したことじゃないんですけどね!」
余計な心配をかけてはいけないと笑って誤魔化そうとするも、そんな私の様子に彼の声のトーンが少し低くなる。
「僕には話せないことですか?」
「そういう訳では・・・」
「なまえさんはいつもそうですよね。僕には何も話してはくれない」
「それは安室さんは、いつも忙しそうだし疲れていると思って・・・」
しどろもどろになりながら答えていると、腕の力が緩められ体が離され、先程までは見えなかった彼の表情が見える。
こんな表情見たことない・・・。
いつものニコニコとした笑顔はなく、彼の瞳は淋しげに揺れていた。
「そんなに僕は頼りないですか?」
「・・・っ!そんなことないです・・・!」
「だったら他の男に相談する前にちゃんと僕に話してください。あとあんな簡単に触れさせるのも禁止です」
そう言いながら眉間にしわを寄せる安室さん。
自惚れなんかじゃない・・・これはやっぱり・・・
「ヤキモチですか?」
思わず心の声がもれる。
しまった、と思い口を塞ぐも時すでに遅し。私の心の声はしっかりと安室さんの耳に届いたようだ。
「・・・・・・いけませんか?いい大人でも嫉妬くらいします」
いじけた様にそう呟くと、すとんと私の肩に頭をのせてくる彼の姿に思わず笑みがこぼれる。
「・・・可愛い」
「え?」
「安室さんが可愛いです・・・!」
「・・・っ!なまえさん、僕は真面目に話をして・・・「ずっと不安だったんです」
ずっと言えずにいた言葉がやっと言えた。
「不安・・・?」
「・・・なんで私なんかと付き合ってくれてるのか。本当に私のことを好きだと思ってるのか・・・ずっと不安だったんです」
私の言葉に驚いたように目を見開く安室さんに、ずっと不安に思っていた気持ちを伝える。
「僕は好きでもない女性に付き合ってくれなんて言いませんよ。それに不安だったのは僕も同じです」
安室さんも不安だった?なんで?
頭の中にはハテナしか浮かばない。
きっとそれが表情にもでていたんだろう、安室さんが少し苦笑いを浮かべる。
「とりあえず部屋に上がってもいいですか?」
「あ、はい!どうぞ!」
そうだ、ここ玄関だ・・・。
話に集中しすぎて忘れてた。
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