▽ 1-3
公園のベンチに腰掛けている零を見つけた。
ずっとずっと会いたいと願っていた彼の姿は、記憶の中よりも幾分か小さく見えた。
動きにくいドレスの裾を持ち上げながら彼の元へと走る。
「・・・・・・零!!!」
私に気付いた零が目を丸くしている。
「・・・・・・なまえ・・・」
名前を呼ばれるだけで涙がこぼれそうになる。でも泣いてちゃ駄目だ。ちゃんと気持ちを伝えなきゃいけない。
たとえここできっぱりフラれたとしても・・・。
「・・・零。ずっと会いたかった・・・っ・・・。私やっぱりまだ・・・っ・・・零のこと・・・!!?」
好き。そう言い終える前に、私は気がつくと零の腕の中にいた。
「・・・・・・夢・・・じゃないよな?」
耳元でそうつぶやく声が聞こえる。私の存在を確かめるように、腕に力がこめられる。
「会いたかった・・・」
絞り出すように呟かれたその言葉に、涙が止まらなくなる。
「・・・なんで・・・っ、あのとき・・・いなくなったの・・・・っ・・?」
ずっとずっと聞きたかった言葉。
「・・・零は、私のこと・・・っ・・・どう思ってるの・・・??」
やっと言えた言葉。
そっと腕がほどかれ、真っ直ぐに私を見る零と目が合う。
「好きだよ。今も、昔もずっと・・・・・・俺にはなまえだけだよ・・・」
その瞬間、私はなにもかも忘れて彼に抱きついていた。
泣きじゃくる私を宥めるように、そっと背中を撫でながら、ゆっくりとあの日の真実を語ってくれた零。
あの日の別れは、決して気持ちが離れたわけではなかったこと。私を危険に巻き込まないために、その一心で私の前から姿を消したこと。私なら分かってくれると思っていたこと。
「・・・っ馬鹿!言ってくれなきゃわかんないよ・・・!」
「・・・だよな。ごめん」
「零はいつも肝心なことを言ってくれないもん・・・」
「・・・うん、ごめん」
「さっきからごめんばっかり・・・っ・・・!」
彼の顔を見ようと、ばっと体を離し顔を上げる。
「零・・・・・・、泣いてるの・・・?」
そこにいたのは、涙こそこぼれていなかったもののうっすらと目に涙をためている零の姿だった。
彼のそんな表情を見るのは初めてだった。
「もう二度とこんな風になまえに触れることはないと思ってた・・・・・・」
壊れ物を扱うように、そっと私の頬に手が触れる。
「・・・・これからあそこに戻るのか・・・?」
ちらりと教会のほうへと視線を向ける零。その瞳は不安に揺れている。
「・・・っ、戻らないよ。そのつもりだったら、こんな所まで来てないよ・・・っ!
私は・・・零のそばにいたいよ・・・っ・・・!」
やっとの思いで絞り出した言葉。
泣きそうな表情をした零をみて、不安だったのは自分だけじゃなかったんだと知った。零も同じくらい不安だったんだね・・・・・・。
「・・・・・・っ、ありがとう。ずっと1人にしてごめん」
会えなかった時間をうめるように、きつく抱きしめ合う。腕の中で感じる彼の体温は昔と変わってなくて、また涙がこぼれそうになる。
ずっとすれ違っていた私達。
素直になれなくて、周りの人を傷付けた。
たくさん遠回りをしてやっと言えた言葉。
重なったふたつの影を祝福するように、キラキラ輝く太陽と澄み切った青空がどこまでも広がっていた。
*
「おはよう、零」
相変わらず仕事は忙しく、なかなか家に帰れない日も多い。
数日ぶりに家に帰ってきて、疲れからソファで眠ってしまった俺を起こす優しい声。
「・・・ん、おはよう」
朝起きて最初に見るのがなまえの笑顔。その幸せな現実に思わず笑みがこぼれる。
「なんで朝からニヤニヤしてるの?」
「うるさい、ニヤニヤなんてしてない」
「あ、わかった!朝から私の顔見れて幸せ〜!って感じでしょ」
嬉しそうに俺をからかってくるなまえ。
あぁ、幸せだな。
なんでもないこんなやり取りにたまらなく幸せを感じる。
「やっぱり零は私のことが大好きなんだね〜」
「あぁ、好きだよ。お前が思ってる何倍もな!」
「・・・・・・っ?!」
素直にそんなことを言われると思ってなかったであろうなまえの顔が、一気に真っ赤になる。そんななまえの顔を見て、また笑みがこぼれる。
これからはちゃんと伝えていくよ。
あんな後悔をするのは二度とごめんだ。
なまえ、俺と出会ってくれてありがとう。
Fin
prev / next