▽ 傷痕を隠す包帯
「みょうじさん大丈夫?また痩せたんじゃない?」
「そうですか?ダイエット成功かな〜♪」
給湯室でコーヒーをいれていると、後から部屋に入ってきた同じ部署の先輩が心配そうに私の顔を覗く。
なんてことないように彼女に笑顔を返すも、彼女の顔から心配の色は消えない。
「例のストーカー、あれからどうなの?」
「直接的に何かされたわけじゃないし、大丈夫ですよ」
「やっぱり警察に行くのはどうしても嫌?」
「・・・・・・ですね。でも本当にヤバそうならすぐ警察行きます!」
マグカップにいれたコーヒーからゆらゆらと立ちのぼる白い湯気。コーヒーの香りがふわりと鼻を掠めた。
彼女は入社してすぐから私を見てくれていたから、今回のことも何かと心配してくれて。警察に行くべきだと何度も言われた。それでも首を縦に振らない私に、困ったように眉を下げる。
「どうしても警察が嫌なら、探偵に相談するのは?」
「探偵・・・?」
あまり馴染みのないそのワードに、コーヒーを飲もうとマグカップに伸ばした手が止まる。
彼女は、シンクに腰を預けながら言葉を続ける。
「毛利探偵事務所って知ってる?眠りの小五郎、最近よく聞くでしょ?」
「ニュースとかでたまに見ますね」
「私この前飼ってる猫がいなくなってね、藁をも掴む思いで彼の事務所に相談しに行ったの。有名人に猫探しなんて今思えば失礼だったのかもしれないけど、すごく親身になって相談に乗ってくれたわ」
「・・・・・・眠りの小五郎、か」
「1度相談だけでもしてみたら?対策とか色々教えてくれるかもしれないし」
彼女の瞳からひしひしと伝わってくる私を案じる気持ち。
探偵なら萩原さんの耳に入ることもないだろう。
お金を払って依頼するとなれば、頼る≠アとへの罪悪感も少しは和らぐ。
・・・・・・そして何より、1人で抱えることがもう限界だった。
「そう、ですね。1回相談に行ってみます・・・。色々心配かけてごめんなさい」
「いいのよ、そんなこと。それにそういうときは、ごめんじゃなくてありがとうよ」
「次謝ったら怒るぞ。ダチなんだから気にすんな」彼女の言葉に、いつかの陣平くんの言葉が重なって心臓の奥がきゅっと締め付けられた。
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