置き去りの恋心 | ナノ
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▽ それだけで充分だから


華金、なんてもんは俺達には関係ない。


ただ今日ばかりは、少し特別で久しぶりに同期5人で集まることになっていた。


何かと忙しい奴らだ。

こうして集まるのは、随分と久しぶりのことだった。



飲み会の発案者は、萩と班長だった。


きっと萩が色々と気回して、班長に相談したってところだろう。



「じゃあ久しぶりの再会に乾杯〜♪」

それぞれがビールのジョッキを片手に持ち、萩の音頭でジョッキを合わせた。


零と最後に会ったのは、あの公園で話した時だったから。何となく今もなまえと会ってる手前、少しの気まずさはある。


それでも俺達は、ずっと一緒にいたから。なまえのことうんぬんより前に、大切なツレだから。



酒の力も借りて他愛もない話で盛り上がる。


零が終わったと言う以上、俺が首を突っ込むことじゃない。俺がなまえを気にかけるのは、ただのお節介だと。まるで誰かに言い訳をするように、心の中で呟いた。



「降谷ちゃんと諸伏ちゃんが1番忙しそうだし、こうやって集まれて良かったよ」
「オレは零ほどじゃないけどね。萩原達も爆処の期待のエースだろ?忙しいんじゃないのか?」
「ぼちぼちかなぁ。陣平ちゃんがすぐ現場で突っ走っちゃうから、止めるのが大変なくらいだな」
「お前だって、いつもついてくるだろ!萩」
「相変わらずお前らは仲がいいな」


隣に座っていた班長が、ケラケラと声を上げて笑う。


あの頃と変わらない俺達の関係。


ゆったりと穏やかな時間が流れる。



その時、ポケットに入れていた携帯が鳴る。



「悪ぃ、電話だ」

一言そう告げると、携帯の画面を見る。



着信 なまえ



予想していなかった名前に、ぴくりと眉が上がる。



「もしもし。どした?」
『・・・・・・陣平くん、?ごめん、急に』


なまえから電話をかけてくるなんて、ほとんどないから。


何となく嫌な予感がしたんだ。






「何かあったのか?」
『仕事終わって今帰ってたんだけど、何か駅前から誰かがついてきてる気がして・・・』
「っ、はァ?!お前今どこいんの?!」


思わず声を荒らげた俺に、萩達の視線が集まる。

けれどそれを気にかける余裕なんてなくて。



『家の近くのコンビニ。このまま走って家まで帰ろうかなって思ったんだけど、やっぱりちょっと怖くて』
「馬鹿!すぐ行くから絶対そこ動くな!」


電話を切り、椅子の背もたれに掛けていたスーツのジャケットを羽織る。


慌てて立ち上がった俺に萩が小さく首を傾げた。



「陣平ちゃん?何かあったの?」
「悪ぃ、萩。ちょっとここ立て替えといてくれ。また後で連絡する」

それだけ言うと、萩の返事を待つことなく店を飛び出した。






店からなまえのいるコンビニまでは車で10分くらいだろうか。金曜日ということもあり、タクシーは捕まりそうもない。


「っ、クソ!」

タクシー乗り場に並ぶ人を見て小さく舌打ちをすると、そのまま人混みを抜け走った。







「いらっしゃいませ〜」


やる気のなさそうなコンビニ店員の前を通り、店内を見渡す。



「陣平くん!」
「っ、はぁ、無事かよ」
「・・・うん・・・っ。走って、来てくれたの?」
「あんな電話きたら、そりゃ走るだろ」


なまえの無事を確認して、はぁはぁと膝に手をつきながら呼吸する俺を見て彼女は申し訳なさそうに眉を下げる。


馬鹿かよ。そんな顔させたいワケじゃねェっての。


ふぅ、と息を整えると、そのままなまえの頭を乱暴に撫でた。



「何もなくてよかった。とりあえず帰んぞ」
「・・・っ、ありがと・・・」


またそうやってお前はすぐ泣きそうな顔で笑うんだな。なんて心の中で呟いた言葉を声にすることはなかった。



なまえの家までの道すがら。


俺は萩に電話をかけた。


『もしもし、一体何があったんだよ』
「急に飛び出して悪かったな。なまえから電話あって、ちょっとな」
『なまえちゃん?今一緒なのか?』
「あぁ。とりあえずこっちは大丈夫だから。他の奴らにも謝っといてくれ」
『それはいいけど。まぁまた今度詳しく聞くよ』
「ん、了解」


萩は事情を察したのか、深くあれこれ聞いてくることはなかった。


黙って隣を歩いていたなまえが、電話を終えた俺を見上げる。


「萩原さんと一緒だったの?」
「あぁ。久しぶりに同期で飲んでたとこだった」


同期


その言葉になまえの顔が僅かに歪む。


そういやコイツの前で零の話するの、久しぶりだもんな。



「零も来てたぞ」
「っ、そっか・・・」
「忙しいみてェだけど、まぁ元気そうにはしてた」


それだけ伝えると、なまえは小さな声で「元気なら良かった」と呟いた。

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