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※ もし出会わなければ の夢主ちゃんと降谷さんのお話です。未読の方はご注意ください。ゼロの日常のネタバレ、内容改変含みます。


梓さんから町内のお花見に誘われた俺と彼女。


俺の車で酒やつまみなどを買いに行き、桜が綺麗と有名な近所の公園へとやってきた。


買い出しに行っていたこともあり、少し到着の遅れた俺達が公園に到着するとすでにわいわいと賑やかな様子。ポアロで話したことがある人も多く、みんな笑顔で迎えてくれる。


「あ!二人とも待ってましたよ!買い出しありがとうございました」

俺達の姿を見つけた梓さんが笑顔でこちらに手を振る。

そんな彼女の近くに腰を下ろした俺と彼女は、満開の桜を見上げた。


「満開で綺麗!今週末にして正解でしたね」
「ホントそうですよね!来週だったら散ってたかもしれないですし」
「こんな大人数でお花見って初めてだからなんだかワクワクします。誘ってくれてありがとうございました」
「こちらこそ。二人が来てくれて嬉しいです!」


梓さんとそんな話をしながら桜を眺めている彼女。持ってきていた缶の飲み物を片手に乾杯と楽しげに話す彼女達を見て、自然と目尻が下がる。


周りを見回せば、楽しげに談笑する人々や弁当を食べている家族連れがレジャーシートを広げ花見を楽しんでいる。


皆が笑顔で平和な時間を過ごしていた。


たまにはこんな時間も悪くない。
そんなことを考えていると、強い風が俺達の間を吹き抜けた。

その風で桜の花びらがふわりと舞い散る。


「えい!!」

その桜の花びらを掴もうと中に手を伸ばした梓さん。


「桜の花びらのおまじない知りませんか?地面に落ちる前に三枚掴むと願いが叶うってやつ」

花びらを掴み損ねた梓さんが俺達を見ながら、花びらを掴めなかった手のひらをこちらに見せた。


「へぇ、初めて聞いた!」
「おまじないみたいなものですね」
「でも舞ってる花びらを掴むって難しそう」

梓さんと一緒になって花びらに手を伸ばす彼女。
ひらりひらりと揺れながら落ちていく花びらは、彼女の手をすり抜けていく。


「安室さんは何をお願いしますか?花びら掴めたら」

不意に投げかけられた梓さんの言葉に、一瞬なんと答えるべきか詰まってしまった。


「安室さん?」

それに気付いた彼女が宙に伸ばしていた手を止めこちらを見た。


「ねぇー!お酒もうない?」

そんな会話を遮るように聞こえてきた声。
俺は車に置いたままになっている酒を取りに行くため立ち上がった。


「車に積んである予備を取ってきます」
「私も手伝うよ!」
「大丈夫だよ。そんなに量もないし」
「・・・そう。分かった!ありがとう」

立ち上がろうとした彼女を制して、一人で車へと向かう。


駐車場に向かう途中、ふと立ち止まり桜を見上げる。


数え切れないくらいの桜の花が頭上に広がっていた。


それを見ていると、懐かしい警察学校時代の記憶が頭をよぎる。その思い出に胸の奥が僅かに痛む。


ふぅと小さく息を吐くと目を閉じる。
そして宙を舞う桜の花びらに手を伸ばした。


握っていた拳を広げるとそこには桜の花びらが五枚。


「桜の花びらは五枚で一つ・・・・・・」

一枚だけ少し離れている花びらが、なんだか自分のように見えて悲しげな笑いが小さくこぼれた。


「願いが叶うおまじない・・・か」


頭をよぎる叶うことのない願い。

懐かしい顔が俺の名前を呼ぶ。



その瞬間、風がふわりと吹き手のひらの花びらをさらっていった。残されたのは少し離れた場所にあった一枚の花びらだけ。


「・・・・・・っ・・・」


やっぱり一人になるのか。
残された桜の花びらと自分が重なる。




「安室さん!」

その時、少し向こうからこちらに駆けてくるひとつの影。


ニコニコとしながらこちらに駆け寄ってくる彼女の姿。俺の前に立つと、彼女は嬉しそうに握っていた右手を広げた。


「零くん見て見て!花びら一枚とれたんだ!零くんに見せようと思って追いかけて来ちゃった」

彼女の手のひらの上にある一枚の花びら。


楽しげに笑いながらそれを見せてくる彼女の姿に、つられて俺も笑顔になる。


「わざわざ追いかけてこなくてもすぐ戻ったのに」

くしゃくしゃと彼女の髪を撫でながらそう言うと、彼女は少し困ったように眉を下げた。


「・・・・・・なんかさっきの零くんがちょっと寂しそうな気がして気になって」
「さっきの・・・?」
「梓さんが桜の花びらのおまじないの話してた時」
「・・・・・・」


お見通しってやつか。
ふっと笑みが零れる。


「大丈夫だよ。ちょっと懐かしい気持ちになってただけだ」

少し下からこちらを見上げている彼女の瞳。

そのまま彼女は手のひらにあった一枚の花びらをこちらに差し出した。


「零くんにあげる。残り二枚も絶対掴むから!」

そう言うと舞い散る花びらに再び手を伸ばす。
そんなに簡単に掴めるわけもなくて、悪戦苦闘している姿に愛おしさを感じる。


俺の手のひらには、先程自分で掴んだ花びらが一枚。そしてその花びらより少し小さい彼女が掴んだ花びらの二枚が並んでいた。


一人きりだった花びらによりそうその小さな花弁。


「・・・・・・一人なんかじゃなかったな」

ぽつりと呟いた独り言に彼女が「え?」と振り返る。


「あ!零くんも花びらとれたんだ!」

二枚並ぶ花びらを見た彼女は嬉しそうに笑う。


俺は「よし!あと一枚だ!」と意気込む彼女の腕を引いた。


「っ、零くん?」
「一分だけ。このままでいてくれ」

そう言いながら腕の中に閉じ込めるとそのまま彼女の腕が俺の背中に回る。


「願いならもう叶ったのかもしれないな」
「零くんの願い事ってなに・・・?」
「なんだと思う?」

俺の問いかけに、うーんと考え込む彼女。


「日本の平和とか・・・?」
「間違ってないけど、それは神頼みじゃなくて俺が努力することだから」
「だったらなんだろ・・・」


仕事のことは自身の努力で結果を出す。
けれど神様に何か伝えるとするなら・・・・・・、


「お前に会えた。神様に感謝だな」


神様なんて信じない。

大切なものを奪っていくから。


それでも一つだけ、感謝することがあるとするなら彼女をこの世界に連れてきてくれたこと。


願わくば、これからもずっと彼女が笑っていますように。そのとき、そんな彼女の隣に俺がいることができますように。


舞い散る桜の花びらの中、そんな事を願わずにはいられなかった。


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