もし出会わなければ | ナノ
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▽ 8-4



やってしまった・・・。

言い過ぎたと思ったときにはもう遅い。


でも目の前に座って私を見ているはずの安室さんがどこか遠くを見ているようで・・・、その瞳が切なさに揺れているようで気付くと口が勝手に動いていた。


そんな日がくるといいと言った彼になんて返すべきかわからず、思わず俯いてしまう。


「なまえさん、パンケーキ食べませんか?」
「・・・え?」
「オススメみたいですよ、このカフェのパンケーキ」


そう言ってメニューを私に向けて見せてくれる彼は、すっかりいつもの笑顔だった。


・・・・・・やっぱり私なんかがこの人の気持ちを理解するなんて、おこがましいにも程があるのかな。


揺れた瞳を見たとき、少しだけ彼の心に触れた気がした。

けれどそんな簡単なものじゃない。


私が赤井さんの言葉に救われたみたいに、少しでも彼の心が安らかであるように・・・・・・そんな思いから伝えた言葉は目の前で笑う彼には届いたんだろうか?





「ご馳走になってしまってすいません・・・」
「気にしないでください。せっかくのお休みに呼び出したのは僕ですし」


いつかの昴さんと同じで、いつの間にか会計を済ませていた安室さんに頭を下げる。


「誘ってくださって嬉しかったですよ・・・・・・って、どうかしましたか?」

私の言葉に驚いたように目を見開く彼に首を傾げる。

「てっきりなまえさんは僕のことが嫌いだと思っていました」
「えっ・・・、どうしてですか?」
「いつも一線を引かれているような気がしていたので。なのでそう言ってもらえると嬉しいです」


やっぱりバレていた。
必要以上に踏み込むことがないように・・・・・、そんな思いで接していたせいだろうか。


「ごめんなさい、そんなつもりはなかったんですけど・・・」
「僕の方こそ変なことを言ってしまってすいません。違うとわかって安心しました」


綺麗に微笑む安室さんに思わず顔が赤くなってしまいそうになる。というかこれは絶対赤くなってる気がする・・・・・・。


「またお誘いしてもかまいませんか?」
「あ、はい!もちろんです」
「よかった。また連絡しますね」


家まで送ります、と言って駐車場へと向かう安室さんの背中を急いで追いかける。


必要以上に関わらない、もうそんな言葉で誤魔化したくないと思った。


この人の心に触れてみたい。
赤井さんのように魔法みたいな言葉を紡ぐ力は私にはない。


それでも私がこの世界にきた意味があるのなら・・・・・・。

彼の過去を知っている私がここで貴方に出会った意味があるのなら・・・・・・。


少しでも彼の本当の心に触れてみたい。そう思ったんだ。

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