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▽ 0-1


バケツをひっくり返したかのように、ざーざーと降り続ける雨。


ああ、またこの夢だ。

ひたすら振り続ける雨の中、あの人達の声が聞こえる。


「1人にしてごめんね・・・・・・」

「・・・・・・別れてほしい」

「・・・・・・ちゃんは強いから1人でも頑張れるよね?」

「お前といるのに疲れたんだ」


うるさいうるさいうるさい。
聞きたくない。


耳を塞ぐと声は聞こえなくなる。
ただひたすら雨の音だけが響いていた。



「またあの夢だ・・・・・・」

ふと外を見ると雨が降っていて、ぽつぽつと窓に雫が当たる音がする。

あぁ、この雨のせいであんな夢を見たのか・・・・・・。


体にまとわりつくような気だるさを払うように、ベッドから起き上がる。欠伸をしながら洗面台に向かい、夢の内容を頭から追い出すように冷たい水で顔を洗う。


「まだこんな夢見るとか馬鹿みたい」

自嘲気味な笑みを浮かべながら、リビングに向かう。

白と黒を基調に、シンプルな家具が置かれたリビング。そのリビングの中で一際目を引くのが、1DKのこの部屋には少し不釣り合いな大きめの本棚だ。


「今日はどれにしようかなー」

幸いにも今日は、何も予定がない休日。ゆっくりゲームもできるし、漫画も読める。いつも仕事に追われてる身としては、嬉しいことだ。よし、決めた!と漫画に手を伸ばすと同時に、枕元に置きっぱなしにしていた携帯が鳴る。


「もしもしーなまえ?今って忙しい?」

電話の向こうから聞こえてくるのは、仲のいい女友達の声だ。外にいるのか少しがやがやとした音が、声とともに聞こえてきた。


「暇だったら・・・「忙しい、めちゃくちゃ忙しい!」

思わず彼女の質問に被せるように答える。休みの日に突然彼女からかかってくる連絡に、ろくなことは無い。買い物の誘いに夕食の誘い。そしてなにより・・・・・・。

「嘘だ!またどうせ家でごろごろ漫画でも読んでたんでしょ!」

笑いながら聞いてくる彼女。


「だーかーらー!漫画読むから忙しいの!貴重な休日なんだから。」
「駄目だよ、せっかくの休みなんだから外に出なきゃ!ってことで今日ね、合コンセッティングしたからおいでよ!」

やっぱり。彼女からの誘いで、1番面倒くさいのがこれ。


「遠慮しとくよ。今日はそんな気分じゃないし。」

せっかくの休日に合コンなんて行く気分じゃない、そんな時間があるなら、漫画を読みながらごろごろしてたい。


「あのね?なまえ!あんた今日はそんな気分じゃないっていつもでしょ!いつも仕事ばっかで、やっと休みになったと思ったら家で漫画やゲームばっかり!そんなだといつまでたっても彼氏できないよ?!」

何かと恋多き彼女は、恋愛が絡むといつもこうだ。悪い子じゃないのは分かってるけど、正直今は彼氏なんて欲しいと思わないのが私の本音だ。


「恋ならしてるも・・・「どうせ漫画やゲームでしょ!」」

私の返事を遮るように彼女は続ける。


「そうやって現実から逃げてたって変わらないんだよ?」

先程までとは違い、彼女の声が真剣みを帯びる。


「・・・・・・あんな奴のこと、まだ忘れられないの?」


あんな奴・・・か・・・。



━━━・・・

━━━━・・・・・・

━━━━━━━・・・・・・



「・・・なまえ?聞いてるの?」

私の名前を呼ぶ彼女の声にはっとする。


「とにかく!今日はなまえの為に合コンセッティングしたんだから待ってるからね!」

やや強引に時間と場所だけを伝えて電話を切る彼女。


「はぁ・・・・・・めんどくさいなぁ」

思わず溜息がこぼれる。


1年前、私は学生時代からずっと付き合っていた彼氏と別れた。

私が落ち込んでいたあのとき、ずっと隣で励ましてくれていたのは、他の誰でもなく彼女だった。どん底だった私を見ていたからこそ、現状を心配してくれているのだろう。


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