▽ 2-7
Another side
彼女が住んでいたというマンションにくると、どうやらそこは元の世界と同じ部屋だったらしい。
何かわかるかもしれないと、隣の部屋の住民を訪ねてみたが、単身者用のマンションということもあり元々隣近所の付き合いはなかったらしい。
やっぱり彼女が嘘をついているということか?・・・・・・いや、あの驚き方や動揺の仕方が演技だとは思えない。
そんなことを考えていると、カチャリと目の前にコーヒーが置かれる。
「よかったら、どうぞ」
昨日とは反対に彼女がコーヒーをもってくる。そして私の向かいに座ると、何かを決意したような瞳でこちらを見据える。
「沖矢さん、私この部屋で暮らします。とりあえず住む所はあるし、仕事も探してみます!」
そう言いながら笑う彼女。
右も左も分からないそんな世界でたった1人の彼女。理由は分からないが、力になってやりたいと思った。突拍子のない話ではあるが、彼女がそう言うのならばきっと嘘ではないと信じている自分がいる。
「・・・・・・そうですか、わかりました」
しかし彼女がそう言うなら、俺には無理に止める権利はない。
「これは私の連絡先です。何かあったらすぐに連絡して下さい」
テーブルの上にあった紙に連絡先を書いて彼女に渡す。
「ありがとうございます!本当に何から何までお世話になりました・・・!」
1人にさせることに不安を覚えながらも、ここに長居するわけにはいかない。自分の本来の役目を果たさなければ・・・。
後ろ髪を引かれつつも玄関に向かうとその後ろをついてくる彼女。
あぁ、きっと不安なんだろう。さっきまでと同じ笑顔のはずなのに、いざ俺が帰るとなるとその表情に不安が混じる。
「大丈夫か?」
思わず沖矢昴であることを忘れて問いかける。
「・・・・・・っ!・・・大丈夫ですよ!」
一瞬泣きそうな表情を見せたもののすぐに笑顔を作る彼女。
「また連絡する」
強がっているのは分かっていたが、今の自分にはどうすることも出来ない。ならば彼女が隠した涙には気付かない振りをしてやるのが俺に出来る精一杯だった。
帰り道、車を走らせながら会ったばかりの人間をここまで心配している自分でもらしくない感情にふっと笑いがこぼれるのだった。
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