▽ 1-3
「だからって本当に来ちゃうなんてありえないでしょ・・・・・・・・・・・・」
あれかな、もしかして手すりの所から全部が夢なのかな?本当は酔って潰れて席で寝ちゃってたとか!そんな僅かな可能性を信じて自分の頬を思いっきりつねる。
「・・・・・・めちゃくちゃ痛い」
この痛みは絶対夢なんかじゃない、少し赤くなった頬を擦りながら改めて実感する。
*
駅前でずっと突っ立ってるわけにも行かず、とぼとぼと歩き出す。もちろん行く宛なんてあるわけない。知り合いもいなければ自分の家だって存在するのか分からないそんな世界。
確かに誰も私のことを知らない土地で、全部忘れてやり直せたらいいなとは言ったけど・・・・・・。外国なんかよりもっと遠い所に来てしまった。遠い所ってかもはや別世界だし。
これからどうしたらいいんだろう・・・・・・。こんな物騒な町で夜中にうろうろしているのは危険すぎる。頭では分かっていてもどこに行くべきなのか分からない。
大好きな漫画やアニメの世界。誰だって1回くらいは、トリップしてみたいなって、憧れることはあるだろう。私だってもしそんなことになったら、絶対好きなキャラ達にひと目会いたい!なんて考えていたけど・・・・・・実際自分がその立場になると不安しかない・・・・・。
行く宛のないわたしは、そんなことを考えながらふと目についた公園のベンチに腰をかけた。
そもそも私が知っているこの世界は、新一くんがコナンくんになった後だけだ。もしその時代じゃないなら、ここは正真正銘の私の知らない世界になる。
「どうしよう・・・・・・」
不安からか涙がこぼれる。
どれくらいの時間ここに座っていたんだろう。うつむいていた私の視界に、街灯に照らされた影がうつる。
「・・・・・・先程からずっとここにいらっしゃいますよね?こんな深夜に女性がおひとりでは危ないですよ」
聞き覚えがありすぎる声に釣られて顔を上げる。
茶髪に眼鏡をかけた男性。そして首元はハイネック・・・・・・。
「何かお困りですか?お役に立てるかは分かりませんが、僕でよければお話くらいは伺いますよ」
ベンチに座る私の目線に合わせるように屈んでくれる彼。
初めてこの世界で知っている人に会えた。一方的にとはいえ、その安心感は絶大で張り詰めていた緊張の糸がきれる。
「・・・・・・う・・・そ・・・っあ・・・かい、さんだ・・・」
思わずそうつぶやきぼろぼろと涙をこぼす私に対し、先程までの優しげな雰囲気とは打って変わって、彼の纏う空気が一気に張りつめる。
そんな彼の変化を見て、しまったと思ったときにはもう遅い。今の彼は 沖矢昴 だ。時系列は分からないけれど、目の前にいる彼は赤井秀一ではない。そんな状況で、見ず知らずの女から赤井さんと呼ばれたら彼が私を警戒するのも当然だ。
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