▽ 1-6
「好きだった。ずっと昔から」
ずっとずっと望んでいた零のから気持ち。
嘘だと思った。
いつものように喧嘩混じりの口調で言い合いになる私達。けれどそれすらおかしくて、愛おしくて思わず笑いがこぼれた。
「・・・・・・ずっと好きだったのは本当だ。言えなかったのは、俺の気持ちを知ったなまえが離れていくのが怖かったから」
「・・・・・っ」
自然と涙がこぼれていた。
同じだった。
私も零を失うのが怖かった。
幼なじみのままでもいいと思った。
離れたらこの気持ちも忘れられると思っていた。
けれどその反対で、会えなければ会えないほど彼への気持ちは募っていく。
抱き寄せられた零の腕の中が、優しくて安心できて温かくて。
「・・・・・・っ、好き。私もずっとずっと好きだった・・・っ」
気付くと抑えていた気持ちが溢れていた。
「・・・・・・俺達もしかしてめちゃくちゃ遠回りしたんじゃないのか?」
どれくらい時間が経ったんだろう。
泣き止んだ私は、零と手を繋ぎながら家へと向かって歩いていた。
「たしかにそうかも」
「こんな事ならもっと早く伝えておけば、あんなよく分からない男となまえが付き合うこともなかったんだな」
「よく分からないって・・・。それを言ったら零もじゃん」
言い合いのようなやり取りをしながら、自宅の前に着くと見慣れた人影が壁にもたれながら立っていることに気づく。
「ヒロくん?」
「おかえり、二人とも」
ヒロくんは壁から背中を離すと、こちらへと歩いてくる。そして私達の繋がれた手を見ると目尻を下げて優しく笑った。
「やっと、だな」
ずっと私の恋を見守ってくれていた幼なじみ。彼の言葉にまた涙腺が緩む。
「零のことを焚きつけた甲斐があったよ」
「どういうこと?」
「っ、おいヒロ!」
「零はずっと昔からなまえが好きってことだよ。なぁ、零?」
揶揄うようにそう言いながら零の肩に腕を回したヒロくん。
珍しく頬を赤く染めた零の表情に、思わず胸がきゅんと高鳴る。
「なまえ、零に泣かされたらいつでもオレの所においで」
「っ!」
「優しく慰めてあげるから」
ケラケラと笑う優しい幼なじみ。
ふざけ合う二人の姿が嬉しいと思った。
ずっとずっとこの時間が続きますように。
しっかりと繋がれた手。
いつまでも離さずに隣にいられますように。
少し欠けた月が優しく見守る闇の中、そんなことを願わずにいられなかった。
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