捧げ物 | ナノ
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▽ 1-5



店に入るとヒロとじゃれ合うなまえの姿が目に飛び込んできた。

どこからどう見てもお似合いの二人。

俺がなまえと連絡をとっていない間も、ヒロは割とマメに連絡をとっていたらしい。


縮まった二人の距離と、離れた俺との距離。


三人で過ごす時間は懐かしくて楽しいもの。


そんな時間を引き裂くように電話が鳴る。相手は最近よく連絡がくる同僚の女性。

好意を寄せられていることは気付いていたが、仕事で気まずくならない程度にかわしていたつもりだった。

邪険にすることもできず、しばらく外で話し店の中へと戻る。

いつの間にかヒロはなまえの隣に移動していて、彼女の肩に腕を回していた。





なまえがトイレに立つと、会計を済ませた俺とヒロ。


「なぁ、零。そろそろ素直になってもいいんじゃないか?」

なまえがまだ戻らないことを確認したヒロが不意に口を開いた。


「・・・っ、何のことだ?」
「分かってるだろ、何のことか」
「・・・・・・」
「零がいらないならオレがもらうからな」

その言葉はいつもより真剣味を帯びていて、彼の真っ直ぐな瞳がじっと俺を見ていた。

戻ってきたなまえをいつもと変わらない笑顔で迎えるヒロ。


ケラケラと楽しげに笑い合う二人の間には、俺にはない積み上げてきた時間があった。





淡いぼんやりとした光に照らされたベンチに並び座りながら、懐かしい昔話に花を咲かせる。

不意に途切れた会話。

しんと静まり返った公園。遠くで車の走る音だけが響く。



頭の中でさっきのヒロの言葉が木霊する。


あの時は高校の先輩相手だったから、どこかで積み上げてきたもので負けない自信があった。

でもヒロは違う。

あいつが本気でなまえを想うなら、俺が勝てるとは思えなかった。



「・・・い、零?ぼーっとして何かあったの?」

ヒラヒラと手を振りながら俺の顔を覗き込むなまえ。

その顔の近さに思わずどきりと心臓が跳ねる。



「仕事で何かあったとか?あんまり無理しすぎちゃ駄目だよ」


好きだ。

その三文字が何故言えないんだろう。


失うのが怖かった。

当たり前に隣にいた彼女が、俺の気持ちを知って離れていくのが怖かった。


けれど蓋を開けてみたら、気持ちを伝えずにいる今の方が彼女との距離が遠く感じる。


「なぁ」

隣に座るなまえは不思議そうにこちらを見上げながら首を傾げた。


このままヒロに盗られるくらいなら、伝えた方がいい。例えフラれたとしても、何も言えないまま二人を見守る方が何倍も辛いはず。





「好きだった。ずっと昔から」


何年もいえなかった言葉は、すらりと口からこぼれた。


なまえの瞳が驚いたようにぱっと開かれる。


「・・・・・・っ、冗談でしょ?零はいつも私の事なんか女の子扱いしなかったじゃん」

少しだけ震えている彼女の声。そこに浮かぶのは動揺の色。


「女としか見てなかったよ、ずっと!お前が勝手に彼氏作った時だって、俺がどれだけ・・・っ」

恥ずかしさからか語気が強くなる。


「なっ、それは零もじゃん!彼女作ってたくせに!」
「それはなまえが・・・っ!大体この四年間だってなんで連絡してこないんだよ」
「それは零がしてこないから・・・っ」


視線が絡み合うと自然と言葉に詰まる。


何をやってるんだ、俺達。


思わず二人とも笑いがこぼれた。


笑う彼女をこれから先も近くで見たいと思った。


「・・・・・・ずっと好きだったのは本当だ。言えなかったのは、俺の気持ちを知ったなまえが離れていくのが怖かったから」
「・・・・・・っ」


俺の言葉を聞いたなまえの瞳に涙がたまる。

そして溜まった涙は、ぽたりと頬を伝う。


「なっ、なんで泣くんだよ」
「・・・・・・ぐすっ、零の馬鹿!・・・っ・・・!!!」


ぽんっと俺の胸を叩くと声を上げて泣く彼女。

どうしていいのか分からず、おろおろと宙をさまよう俺の腕。


こんな時ヒロなら上手く慰めるんだろうか。


そう考えると胸がきゅっと締め付けられる。

恐る恐る彼女の背中に腕を回す。


「・・・・・・っ、好き。私もずっとずっと好きだった・・・っ」
「!!」

俺の腕の中でそう呟いたなまえ。

聞き間違えかと思ったその言葉。

それは俺が長年望んだものだった。


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