捧げ物 | ナノ
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▽ 1-4



月日が流れ、大学を卒業した私は地元へと戻り就職した。


零のことを忘れたくて、離れた場所に進学したけれど結局距離が離れたところで思い出すのは彼のことばかり。


「意味なかったな、離れても」

あの人同じ大きな鞄を片手に新幹線を降りる。


「おかえり、なまえ」

聞きなれた優しい声が迎えてくれる。


「ヒロくん!久しぶりだね!」

パタパタと駆け寄ると優しく迎えてくれる。変わらないその笑顔が嬉しかった。

迎えてくれたのは、ヒロくんだけ。


分かっていてもその事実に少しだけ胸がちくりと痛む。


「零はどうしても仕事休めなくて来れなかったんだ」

そんな私の心を見透かすように、ヒロくんはくしゃくしゃと私の髪を撫でた。


「っ、別に気にしてないよ!そんなの!ヒロくんが迎えに来てくれただけで嬉しいもん」
「ははっ、それは嬉しいな」


ヒロくんとの関係は離れていても何も変わらなかった。

大切な幼なじみ。

離れている間も、ずっと私のことを気にかけてくれていた彼。その優しさにどれだけ助けられただろうか。

その反対に、零と連絡をとることはほぼなかった。

この四年間、実家に帰った回数も数えるくらいで零と会ったのも一度か二度だけ。


「それで?会わない間で零のことは吹っ切れたのか?」

ヒロくんの運転する車の助手席。運転する彼はとても大人に見えた。


「その反対。離れたら余計に気になるんだもん、嫌になる」
「ふっ、それだけ年季の入った気持ちだってことだよ」


実家まで送ってくれたヒロくんと別れ、部屋で片付けをしていると母親に買い物を頼まれた。

近くのスーパーに向かうと、向かいの道路に止まる一台の車に目が止まる。


「・・・あれは」

運転席から降りてきたスーツ姿の男性。


「零!!!」

久しぶりに見た彼の姿に嬉しくなった私は、彼に駆け寄った。


「なまえ、もう帰ってきてたのか」
「うん、午前中に。ヒロくんが迎えに来てくれた。零は仕事?」
「そっか、ヒロが・・・「降谷さん!」


そんな私達の会話を遮るように、助手席から降りてきたスーツ姿の女性が零の名前を呼んだ。


長い髪を纏めたすらりとした女性。ピシッとしたスーツを身に纏う彼女は、同じくスーツ姿の零の隣によく似合っていた。


「あ、悪い。これからすぐ本庁に戻らなきゃいさないんだ。また連絡するよ」

私の肩をぽんっと叩くとその女性と共に車に乗り込んだ彼。

一瞬だけ感じた刺すような視線は、きっとあの女性のもの。


「相変わらずモテるんだね、零は」

走り去る車を見ながら、かわいた笑い声と共にそんな言葉がこぼれた。





「零がモテるのなんか昔からだろ。そんなに気にすんな」
「あの視線を知らないからヒロくんはそう言えるんだよ。めちゃくちゃ怖かったもん」
「よしよし、怖かったな」


数日後、居酒屋でビールを片手にヒロくんにそんな愚痴をこぼす。

子供を宥めるように頭を撫でるヒロくんは、悪戯っぽく笑う。


「遅れて悪い」

そんな私達のじゃれ合いを遮るように店に入って来た零。

話を聞かれたのではないかと、思わずびくりと肩が跳ねた。思わずヒロくんの影に隠れてしまう。


「何で隠れるんだよ」
「っ、隠れてないもん!」
「ははっ、とりあえず座れよ零。ビールでいいか?」
「あぁ、頼む」


ヒロくんの隣に腰掛けた零。

久しぶりの三人で過ごす時間。
お酒の力もあり、懐かしい話で盛り上がる。


その時、机の上に置いていた零の携帯が鳴る。

一度は着信を無視した零だったが、再び鳴り始めた携帯。


「悪い、ちょっと電話でてくる」

携帯を片手に外へと向かう零。ちらりと見えた画面に表示されていたのは、女性の名前だった。


「大丈夫だよ。今の零の恋人は仕事だから」

泣きそうになった私に気付いたヒロくんが私の隣に座り、肩を抱く。


「っ、ヒロくん・・・っ」
「泣ーくーなー。可愛い顔が台無しだ」

瞳に溜まった涙をヒロくんが人差し指で拭ってくれる。

「ほら、零が帰ってきた時にそんな顔してたらまずいだろ。だから泣きやめ」
「っ、うん・・・っ」


しばらくして零が席に戻ってくる頃には、なんとか涙をのみこむことができた。


「じゃあオレは用事あるから、なまえのこと送って行ってやれよ、零」

会計を終え店を出た私達。それだけ言うとヒロくんは人混みの中へと消えていく。


「こんな時間から用事ってなんだよ、ヒロの奴。まぁとりあえず帰るか」

歩き出した私達。繁華街を抜け住宅街に入ると、先程までの喧騒が嘘のように静かだ。

腕が触れそうで触れない距離。

ヒロくんにはあんな簡単に触れられるのに、零とはこの距離ですら緊張してしまう。


「昔あそこの公園でよく遊んだよな」
「あ、ホントだ。懐かしいなぁ」
「寄ってくか?」
「うん!」


古びた遊具。ぼんやりとした街灯に照らされた公園は、時が止まったように昔のままだった。

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