捧げ物 | ナノ
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▽ 1-1


俺の視線の先には、いつもなまえがいた。


いつからだろう、彼女を目で追うようになったのは。気がつけばいつも隣には彼女がいたのだ。


“幼なじみ”


彼女と俺の関係だ。







「零!聞いて!彼氏できた!」

ミンミンと蝉がうるさく鳴く季節。それは高校にあがって一度目の夏のことだった。


いつものように学校に向かう道すがら、少し前を歩く、白いセーラー服に身を包んだ彼女がこちらを振り返りながら笑顔でそう言った。


いつも一緒だった俺達は当たり前のように高校も同じ場所に進学した。もう一人の幼なじみのヒロも同じ高校だ。


なんで今日に限ってヒロがいないんだよ。


いつもは三人で学校に向かう俺達。けれど今日に限って委員会があるとかなんとかで、一人先に学校へ向かったヒロ。


「・・・・へぇ。なまえと付き合うなんて物好きな奴もいるんだな」

動揺を押し殺しながら、そう言ってふっと笑うとなまえはべーっとこちらに向けて舌を出す。


「零のばーか!私の事可愛いって言ってくれる人だっているんだよ!」


そんなこと知ってるよ。

ずっと昔から。


まだ少し幼さの残る表情も、すらりと伸びた手足も、くしゃりと笑うその瞳も、からかうとすぐムキになる性格も。


なまえの可愛さなんてずっと昔から誰より知っているつもりだった。


高校に入って化粧をするようになり少しだけ大人っぽくなったなまえ。周りの奴らがなまえのことを可愛いと言っているのを聞いたのも一度や二度ではなかった。


「なまえは化粧ってガラじゃないだろ。なんか似合ってない」

素直に可愛いって言ってやればよかった。

いつかの自分の言葉を今更呪ってみてもなんの意味もない。



「バスケ部の先輩でね、この前友達に誘われて練習見に行ったときに声掛けられて。・・・・ねぇ、聞いてる?」

いつの間にか隣にいたなまえが俺の顔を覗き込んだ。

大きな瞳と視線が交わる。


「っ、聞いてるよ。良かったな、初めての彼氏ができて」
「おめでとうって思ってる?」

上目遣いで尋ねてくる彼女。



そんなこと思えるわけがないだろ・・・。



口からこぼれそうになった本音。

けれど素直じゃない俺は、その言葉を彼女に伝えることができない。


「まぁせいぜいフラれないように頑張れよ」

冗談めかしてそう言いながらくしゃりと彼女の髪を撫でると、「もーっ!」と怒ってみせる彼女。


学校に着くまでの間、隣でなまえが何か話していたが内容はあまり頭に入ってこなかった。





「ヒロはあいつに彼氏が出来たの知ってたのか?」

学校に着き、隣のクラスであるなまえと別れた俺は自分の教室の中にヒロの姿を見つけ今朝の話をした。

どうやら彼はなまえに彼氏が出来たことを知っていたらしく、驚く様子はなかった。


「うん、なまえから相談されてたからね」
「相談?」
「先輩に告白されたんだけどどうしようって。初めてちゃんとした告白をされて、顔真っ赤にしてたよ」


ケラケラと笑いながらそう話すヒロ。机の上に置いていた拳にぎゅっと力が入る。


聡い幼なじみがそれに気づかないはずもない。


「零は良かったの?なまえに彼氏ができて」

「っ、別に!あいつももう高校生なんだからいいんじゃないのか。これで少しは女らしくなるだろ」


嘘つきな自分。

そんなこと一ミリも思っていないくせに。


「そっか。零がそう言うならそれでいいと思うよ」

そう言うとヒロは購買にパンを買いに行くと立ち上がった。

そんなヒロに付き合って俺も立ち上がり教室を出た。


登校した生徒で賑わう廊下。

少し向こうに見知った顔を見つけ思わず視線がそちらに向く。


「あっ、あの人だよ。なまえに告白したバスケ部の先輩」

同じく俺の視線の先に気付いたヒロがその隣に立つ男を指差しでそう言った。


俺達より一つ年上のその男は、人あたりの良さそうな笑顔を浮かべながら壁に背中を預けなまえと談笑していた。


ケラケラと笑い合う2人。


男の手がなまえの頭にのびた。そしてくしゃりと彼女の髪を梳く。それに優しく笑う彼女。


「っ、さっさと行かないと授業始まるぞ」

胸の中にどす黒い何かが蠢いた。

それを押し殺すように、ヒロにそう言うと俺は足早に彼らから視線を逸らし購買へと向かう。



「・・・・・・ホント素直じゃないな、零は」

少し後ろを歩くヒロのそんな言葉が、俺の耳に届くことはなかった。

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