▽ 1-1
「なまえさ、今週末何してんの?」
陣平にくっ付いて私の家に晩ごはんを食べに来た萩原は、食べ終わった食器をさげながらそう言って小さく首を傾げた。
何であんたがいるの!って突っ込むのもバカらしくなるくらいには、この男は私の前によく現れる。
もはや陣平のこと好きなのかな?って真剣に思ったこともあって、陣平にそれを伝えたら真顔で「アホか」とだけ言われ冷たい目で見られたから聞くのはもう辞めた。
「特に何もないけど。何で?」
「諸伏ちゃん達も誘って海行くんだけど、お前も一緒に来る?」
「海?!それって陣平も?」
「そうそう。俺らの休み重なるなんてレアだし、夏っぽいことしようぜって話になってさ」
「行く!行きたい!!」
「ははっ、お前ならそう言うと思った♪ 」
まるで私の返事を見透かしてたみたいに、ケラケラと笑う萩原。
そんな話をしていると、ベランダで煙草を吸っていた陣平が部屋に戻ってくる。
「陣平!私も一緒に海行きたい!」
「海?・・・・・話したのかよ、萩」
「いいだろ?別に。諸伏ちゃん達だってなまえと会うの久しぶりなんだし」
どこか不機嫌そうな陣平。
空になったらしい煙草の箱をゴミ箱に捨てると、そのままソファに腰掛ける。
洗い物を終えた萩原は、そのままスーツのジャケットと鞄を持って「じゃあまた時間とか決まったら連絡するよ」と玄関に向かう。
顰めっ面のままの陣平は、財布を持ってそんな萩原の後に続く。
「んじゃあ、飯サンキュな」
「コンビニで煙草買ってくる」
それだけ言うとバタン、と閉まったドア。何となく陣平の表情が気になったけど、聞いたところで素直には答えてくれないだろう。
男だけで行く予定だったのに私がついて行くのか嫌だった?
そんなことが頭を過ぎる。
少し、ほんの少しだけ大人になった私の脳みそに遠慮≠フ2文字が浮かぶもそれはすぐに消え失せる。
だって海だよ??
萩原と零はともかく、陣平とヒロはかっこいいから絶対目立つ。しかもどうせ萩原のことだから、寄ってきた女達にヘラヘラ愛想を振りまくだろう。
それに陣平が巻き添えをくらう可能性だって大いにあり得る。
「絶対無理!!!!!」
1人きり部屋に私の声が響いた。
*
「なーに怒ってんの、陣平ちゃん」
「・・・・・・別に怒ってねェ」
「ははっ、嘘つき。なまえのこと海に誘ったから機嫌悪ぃんだろ?」
分かってんなら聞くな。なんて言いたくなったけど認めるのも癪だからひと睨みするだけで終わらせる。
言葉にしなくても俺の不機嫌の理由を察している萩は、ケラケラと楽しげに笑う。
「いいじゃん、別に。今回班長は彼女と帰省で来れないって言ってたから皆なまえのことは知ってるわけだし。それに貴重な夏の思い出だぜ?」
「・・・・・・、」
「それともなまえの水着姿を他の男に見られたくないとか?」
一際楽しげな萩。ニヤつきを隠そうともしないその顔に今日イチ、イラついた俺は手に持っていた財布で萩の腕を叩いた。
「ははっ、図星か。可愛いなぁ、ホント」
「マジでうるせェ。しばくぞ」
「もう叩いてっから」
萩の言う通りだ。
不機嫌の理由はそれでしかない。
別に諸伏達と出掛けるのになまえがついてくるのは何の問題もない。ただ問題はその場所だ。
あいつは無駄に人目を引く。
別に何かあるとは思っていないけど、それは気分がいいもんじゃねェから。
無意識に溢れた舌打ちに、隣を歩く萩はくすりと笑みをこぼした。
prev /
next