番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


「そーいち?」
「捜査一課な。急だけどそっちに異動になった」
「・・・・・・左遷?」
「っ、違ェよ!バカ!人手不足に伴う正当な異動だ!!」


仕事終わりに私の家にやって来た陣平は、ソファに座りテレビを見ながら隣に座る私を小突く。


どうやら彼は、爆処ってところからその捜査一課とやらに異動になったらしい。


「萩原も一緒?」
「いや、萩は爆処のままだ」

心の中で小さくガッツポーズをする。昔からずっと陣平の隣には萩原がいたから。学生時代はともかく、卒業してからは昔みたいに私はいつでも一緒というわけにはいかなかった。

そんな私とは違っていつも陣平と一緒にいる萩原を、内心(口にも態度にも出てたけど)めちゃくちゃ妬んでた。

久しぶりに陣平に会えて喜ぶ私を見て、「俺はほとんど毎日一緒だけどな♪」なんて揶揄ってくるもんだからあのムカつく長身を何度蹴り飛ばしたか分からない。


そんな私の心の中を見透かすように陣平は、口の端を上げふっと笑みをこぼす。



「ンでさ、今度歓迎会やるらしいんだよ」
「陣平の?」
「俺ともう1人異動してきた女」


ふぁ〜と眠そうに欠伸をする陣平。時計を見ると針がもう少しで日付を跨ぎそうだ。


女≠ニいうワードにぴきり、と眉間に皺が寄る。


松田と付き合い始めてもう少しで3年。

彼女≠ニいう立場にもようやく少しは慣れてきた。


陣平の傍にいる女全てを敵認定していたあの頃とは違う。女がいる飲み会だって、大人な笑顔ってやつで「行ってらっしゃい♪」って見送る・・・・・・・・・

















ワケないじゃん!!!!!!!!


無理、やだ!!


私の知らないところで他の女と喋ってる陣平とか想像するだけで無理!!!!!!





面白いくらいにくるくると変わるなまえの表情。考えていることが手に取るように分かる。


馬鹿正直に話したらまた拗ねるんだろうな、コイツ。


そう思いながらも、隠していて何かの拍子でバレたらそっちの方が面倒だ。


隣で百面相をしているなまえの頭に手を置き、くるりとこちらに顔を向けた。



「あともうひとつ話がある」
「っ、何・・・?!別れ話なら聞かないよ!!!」
「ンな話しねェよ。とりあえず黙って聞け!」

ばっと両手で耳を塞いだなまえ。その手を解きながら、はぁとため息をつく。

相変わらずこの暴走する性格だけは何年経っても治らないらしい。


・・・・・・誰が別れるかっての。


「俺ともう1人のその女にそれぞれ教育係みたいな感じで先輩刑事がつくことになっててさ」
「見守り隊みたいなやつ?」
「あー、まぁそんな感じ」

小難しいことを言っても仕方ないから、見守り隊というガキみたいななまえのそれに頷く。


問題はここからだ。


「俺の担当の刑事、1歳年下の女なんだよ」
「?!?!・・・なっ、」
「いいから黙って最後まで聞け」

大きな目をかっ開いて声を荒らげようとしたなまえの口を片手で塞ぐ。こくこくと頷くのを確認し、言葉を続ける。


「そいつと行動することが多くなると思う。それこそ街中とかで捜査してる時とか、お前がそれを見ることもあると思うんだ」


怒ったかと思うと、今度は瞳をうるうると潤ませ形のいい唇が震え始める。


瞬きをすれば、瞳の縁に溜まった涙が溢れそうだ。


手を伸ばし親指で溢れる前になまえの涙を拭う。


仕事で女と関わるなんて警察官じゃなくてどの職場でもあることだろう。その度にこんな反応をされたらたまったもんじゃない。昔の俺ならそう思ったはずなのに、何故か今はコイツのことは不安にさせたくない気持ちの方がでかくて。

理不尽な怒りも、無茶な涙も、なまえが納得するまでとことん向き合ってやりたいとすら思ってしまう。



「仕事だから。お前が不安に思うことは一切ねェ」
「・・・・・・っ・・・、」
「なまえも職場で男と話すことあるだろ?その度にそいつに惚れたりするか?」
「するわけないじゃん!!!!!陣平以外の男なんか男じゃないもん!!!!」
「それと同じだ、バカ。だからンなことで不安にならなくていいし、泣くな。あと拗ねんな」


なまえの後頭部に手を回し、そのまま胸元に引き寄せる。

ずずっと鼻をすすりながら、ぐりぐりと頭を胸元に擦り寄せてくるなまえ。腰に回された腕にぎゅっと力が入る。



「おい、服に鼻水つけんな」
「無理、もうついたもん」


胸元から顔を離し、上目遣いで見上げてくるなまえと視線が交わる。


「私のこと好き?」
「好きじゃなかったら一緒にいないし、拗ねるの分かっててこんな話わざわざしねェよ」


自信家の我儘女のくせに、すぐ不安になる奴。


そんな彼女が可愛くて仕方ないんだから、俺も中々重症だ。

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