▽ 1-2
大好きな人との子供。その上、蓮は陣平に瓜二つ。
可愛くないわけがない。
そんな蓮からの可愛すぎるプロポーズに、胸がきゅんと締め付けられる。
私も子供の頃、パパと結婚する!って言ってたなぁなんて懐かしく思いながら蓮を抱きしめていた腕を解く。
「ママのこと好き?」
「だいすき!ママのつくるごはんおいしいし、ようちえんにおむかえくるママたちのなかでぼくのママがいちばんかわいい!」
「〜〜っ!!!!」
堪らなく可愛い、我が息子。
私と陣平の間に生まれた子供が、こんなに素直に真っ直ぐに育ったことに感動すら覚えた。
「おおきくなったら、およめさんになってくれる?」
きゅるん、とした大きな瞳でそんなことを言われるなんて卒倒モノだ。
「そんなのもちろ・・・んんっ?!」
即答でイエス!と答えようと口を開いた私の口は、隣にいた陣平の手によって塞がれた。
「蓮」
「なに?」
「大人の話、だったよな?」
「うん!おとことおとこの、しんけんなはなし!」
「じゃあ、パパも男として真剣に答えてやる」
「うん!!!」
「ママはパパの嫁だから、蓮にはやれねェ」
いやいや、陣平さん?
3歳児相手に何を真顔で言ってるの?
自他ともに認める陣平バカの私ですらそう思ったのだ。リビングにいる萩原をちらりと見ると、手で口元を抑えながら必死に笑いを堪えていた。
いや、そもそもお前のせいだ。なんて萩原を睨む。
「っ、ぼくのほうがママのことすきだもん!」
「いや、俺の方が好きだ」
「ぼくだもん!!」
「こればっかりは、いくら蓮でも譲れねェ」
「〜〜っ、、、」
蓮の大きな目にみるみる涙の膜が張る。
陣平の言葉は嬉しいけど、我が子の泣き顔なんて見たくはない。
慌てて止めに入ろうとしたその瞬間、大きな声で泣き始めた蓮。
「パパのばか!!!!ママのことなかせてたくせに!!」
「泣かせた?」
「ぼくみたもん!!」
「泣かせた覚えなんかねぇけど」
泣きじゃくる蓮に手を伸ばそうとしたけれど、リビングからキッチンにやって来た萩原によってそれを阻まれる。
「っ、ちょっと!」
「いいから黙って見てろって。蓮が男同士の真剣な話って言ってたろ?」
「でも・・・」
「蓮はお前のことめちゃくちゃ好きなのと同じように陣平ちゃんのことも好きだろ?だから大丈夫だって」
いつになく真剣な萩原の物言いに、思わず押し黙る。
陣平は泣いている蓮を抱き上げると、そのまま片手でその涙を拭った。
「俺はお前のことも、ママのこともめちゃくちゃ大事なんだ。泣かせたりしねぇよ」
「・・・・・・っ、ぐす・・・、このまえのよるみたもん」
「夜?」
「トイレいきたくておきたら、リビングでママないてたもん!パパがママのことおしたおしていじめてた!!」
時が止まるとはまさにこの事。
隣に立つ萩原が、堪えきれないように吹き出した。
「ぷはっ、相変わらず仲がいいみてぇだな」
「〜〜っ、うるさい・・・!!まじでやめて、いくら萩原相手でもさすがに恥ずかしい」
「照れるなまえとか激レアなもん見れた気分♪」
一方、陣平もいつのことか理解したようで「あー、」と頭をかくとそのまま蓮に向き直った。
「あれは泣かせてねぇから安心しろ」
「・・・・・・ほんと?」
「蓮に約束するよ、俺がママのこと泣かすことは絶対にないから」
「パパはママことすき?」
「あぁ。すげェ好き」
「・・・・・・ぼくのことも?」
「当たり前だろ」
蓮の涙が止まり、小さな手でぎゅっと陣平に抱きつく。
「ママもパパのことすき?」
くるりとこちらを見た蓮は、小さく首を傾げた。
「うん、大好き。もちろん蓮のことも大好きだよ」
「ぼくもふたりともだいすき!!!」
満面の笑顔でそう言った蓮は、天使みたいに可愛い。
「一件落着だな。腹減ったから飯食おうぜ」
「・・・・・・萩原、さっきの話忘れてね」
「んー?陣平ちゃんとなまえがお盛んってやつ?」
「〜〜っ、萩原のバカ!!!!ご飯抜きにするよ!!!」
「ウソウソ、ごめんて。忘れたから安心しろって」
「ママとけんじ、なかよし?」
「んー、まぁ何だかんだ仲良いんじゃね?」
────────────────
萩原が帰り、蓮も寝静まった深夜。
繰り返される通販番組が流れるリビングのソファに並び座る私と陣平。
「はぁ、可愛かったな、蓮のプロポーズ」
思い出すだけで自然と頬が緩む。
「陣平があんな真剣に話すると思わなかったよ」
飲みかけの缶ビールを机に置くと、陣平は私の腕を引いた。
「男と男の真剣な話ってアイツ言ってただろ」
「それにしてもまだ子供だよ?」
「関係ねェよ。相手が誰でもお前は俺のだろ」
「松田は私のものだもん!」それはいつかの私がよく言っていたセリフ。
懐かしさに思わずくすりと笑みがこぼれた。
「ンだよ、ニヤニヤして」
「陣平って私のこと大好きだよね」
「調子乗んな、バカ」
「私も大好き。ずっとずっと世界一大好き!」
変わらない想いと、変わっていく関係。
家族が増えて宝物ができた。
それでもこの気持ちだけは、永遠に貴方のものだから。
Fin
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