番外編 君ありて | ナノ
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▽ 1-1


━・・・ピピッ・・・!


[ 38.7℃ ]



「完全に風邪だな」
「・・・・・・ん、」


なまえから体温計を受け取りながら、火照る彼女の頬に手を当てる。じんわりと高い体温。熱のせいで潤んだ瞳。横になったままなまえは俺を見上げた。


「とりあえずなんか食って薬飲も。お粥とかなら食えそう?」
「・・・大丈夫、それより研ちゃん今日は帰って・・・?」

いつもより覇気のない声でそう言うと、なまえはぐっと上半身を支えていた俺の胸を押し離れようとする。


なまえの考えていることくらい、言葉にしなくても分かる。

それはきっと俺に風邪をうつしたくない、そんな気持ちからの言葉。


「無理、こんな状態のお前のこと1人にできるわけねぇじゃん」
「っ、風邪うつる・・・」


ほら、な。

寂しがり屋のくせに、こういうときは中々素直に甘えてくれない。昔から変わらない彼女に自然と眉が下がる。


「ヘーキ♪ 俺はなまえより丈夫だから」
「研ちゃん・・・」
「それにお前がくれるもんなら俺は風邪でも嬉しいよ?」
「・・・・・・ばか」


冗談めかしてそう言えば、なまえは困ったように小さく笑った。





朝からだるいなって思っていたら、案の定この有り様だ。

「熱あるんじゃね?」って私よりも先に気付いた研ちゃん。ベッドに押し戻され、すっぽりと布団に包まれる。

昨日の夜から泊まりに来ていた彼は、引き出しから取り出した冷えピタを私の額に貼るとそのままキッチンに向かう。


しばらくすると、カチャカチャと調理音が聞こえてくる。


優しい彼がこんな状態の私を放っておけないのは分かっていた。それでも風邪を移したくなくて、離れようとしたけどそれは叶わず。


研ちゃんが掛けてくれた布団に、鼻の下まですっぽり包まる。


寒気と怠さが相まって、ゆらゆらと迫りくる眠気。


久しぶりの高熱のせいもあり、体が悲鳴を上げる。


私はそのまま迫りくる眠気に身を委ねた。




ゆっくりと浮上する意識。


左手に温もりを感じて視線をやると、ラグに座りベッドに伏せた状態で眠る研ちゃんの姿。


その手はしっかりと私の左手を握ってくれていて、胸の奥がきゅっと締め付けられる。



「・・・ん、起きたか?」
「ずっと手繋いでてくれたの・・・?」
「あぁ。熱出た時って心細くなるだろ?」


繋がれた手に力が入る。

目尻を下げて笑う研ちゃんは、繋いでいない方の手で私の首筋に触れた。


「さっきよりは下がったかな?とりあえずお粥作ったから食えそうなら食って薬飲もっか」


ぬるくなった冷えピタを剥がすと、立ち上がろうとする研ちゃん。


離れていこうとするその手が名残惜しくて離すことができない。


「寂しい?」
「・・・・・・、」
「研ちゃん抱っこっていつもみたいに言ってくんねぇの?」
「だって、」

揶揄うようにそう言いながらくすりと笑うと、研ちゃんはベッド脇に腰を下ろした。


そしてそのまま私の腕を引き、ぎゅっと身体を引き寄せた。


すっぽりと彼の腕の中に収まる。


「しんどい時は素直に甘えていーの。分かったか?」
「・・・・・・いつも甘えてる、」
「甘えたななまえちゃん可愛いから大好き♪」
「・・・・・・風邪移したら研ちゃんしんどくなるもん」
「じゃあ、その時はなまえが看病して?」


嘘つき。
きっと研ちゃんは自分が風邪を引いたら、私に移すまいと看病なんかさせてくれないだろう。・・・・・・まぁ、絶対そんなの聞かなけど。


彼はどこまでも私に優しくて甘い。


昔から私が体調を崩すと、研ちゃんはいつも隣にいてくれた。


だから心細さなんてほとんど感じたことがない。



「今は余計なこと考えなくていいから、自分の体調のことだけ考えろよ」
「・・・・・・ありがと、」

いつもよりひんやりとした研ちゃんの手が私の頬を撫でる。優しい手つきが心地よくて、甘えるようにその手に自分の手を重ねた。



────────────────


「ほら、あーん」
「っ、自分で食べれるよ」
「いいから口開けろって」
「・・・・・・・・・ん、」

レンゲにのせたお粥が研ちゃんの手によって私の口に運ばれる。優しい味のお粥が、怠さの纏わりつく体に染み渡る。


「よし、次は薬な」
「ありがと。お粥美味しかった」
「どういたしまして。薬飲めるか?あ、こういう時は口移し・・・・・・「っ、自分で飲める!!」


慌てて言葉を遮った私を見て、喉をくつくつと鳴らしながら笑う研ちゃん。

うう、揶揄われた・・・。


「残念♪」


きっとこの先も彼は私のことをぐずぐずに蕩けるほどら甘やかすんだろう。

その度に私は彼の優しさと底なしの愛情を感じて、もっと好きになるんだ。


Fin


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