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※ 夢主以外の女の子sideのお話なので苦手な方はご注意ください。萩原さんの学生時代のセフレちゃん目線のお話です。
好きなタイプは優しい人。そして私だけを見てくれる人。
萩原研二という男は、間違いなく前者には当てはまるだろう。彼は優しい。10人に問えば10人がそう答えるはすだ。
その優しさは、まるで遅効性の毒のようにゆっくりと私を蝕んでいった。
*
出会いはありふれたもの。たまたま喫煙所でライターを借りたのがきっかけだった。
1歳下の彼のことは、学年が違う私でも知っていた。
彼の周りにはいつも人が集まるから。男女問わず、誰とでもすぐに打ち解ける彼は人気者≠セった。
あの見た目に親しみやすい性格も相まって、彼に恋する女の子は多かった。お堅いわけじゃない。来る者拒まず、去るもの追わず。そういう人だった。
彼のことを好きな女ならみんなが知っている事実。
━━━━・・・・・・ あの人のことを本気で好きになったら駄目。
彼の周りにいる女の子の中には、きっと本気≠フ子もいただろう。
でもそれを悟られちゃいけない。
それを悟られたら、あの人は離れていくから。
いつだったか、誰かがそんなことを言っていた。
*
「おはよ。先輩、二限から授業でしょ?そろそろ起きなきゃ遅刻するよ」
眠い目を擦りながらゆっくりと瞼を開くと、隣でシャツを着ながら欠伸をする研二。
カーテンから差し込む光が眩しくて思わず顔を顰めた私を見て、彼は小さく笑った。
「俺も二限からだし一緒に行く?」
「ん、用意する」
彼が私の部屋に来るのは何回目だろうか。
こうして一緒に朝を迎えた数も、そろそろ両手では収まらないきがする。
所謂セフレ=B
それが私と研二の関係だ。
そうは言っても彼は優しい。
ヤリたい時に会って、終わったらバイバイなんてことはなくて。普段から連絡をすれば割とマメに返してくれるし、セックスする以外の買い物だって付き合ってくれる。情事の最中も、自分勝手に欲をぶつけるわけでもなくまるで恋人にするかのように接してくれる。
ただそれは私が彼との線引き≠しっかりと守っているから。
昔から私は人の顔色を伺うことが癖だった。
不仲な両親の地雷を踏まないように。いつのまにかその人の嫌がることを察することが人より上手くなっていたみたい。
例えば車ひとつにしてもそう。
大学までの道すがら。助手席には座らずに、後部座席に座り外を眺めながらミラー越しに映る彼の顔を盗み見る。
別に研二にそうしろと言われたわけじゃない。
でも何となく、そこに私が座るのを彼は嫌がるような気がしたから。
助手席に置かれた水色のブランケットがいやに目に付いた。
「ふぁ〜、ねみぃ」
「昨日寝るの遅かったもんね」
他愛もない話をしながら、大学の門をくぐる。
肩が触れそうで触れない絶妙な距離を保ち、彼の隣を歩く。
手を伸ばせば触れられる距離。きっと触れたところで、彼はいつもみたいに優しく笑うんだろう。でもそれはきっと最後≠ノなるから。
近くにいても彼の心は、どこまでも遠い。
気付かないわけがない。
「あ、」
周りより頭ひとつ背の高い研二が、少し向こうに何かを見つける。
「じゃあ、俺行くわ。先輩も授業頑張ってね」
「うん、またね」
ちょうど人が掃けたせいで、あの子≠ノ話しかける研二の後ろ姿がよく見える。
ちくり、と痛む胸の奥。
私がどんなに手を伸ばしても触れられない彼に、彼女はいとも簡単に触れるから。
「おはよ、なまえ」
「研ちゃんおはよぉ〜、眠すぎて無理・・・」
「ははっ、目開いてねぇじゃん」
少し前までベッドの上で私に触れていた手で、彼女の頭を撫でる彼を最低だと思えたら楽だったのかもしれない。
彼女を見る研二の目は、私に向けられる視線なんかの何倍も優しくて蕩けるくらい甘い。そこに滲むのは、深い愛情。
そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、甘えるようにぽすりと彼の腕に頭を預ける彼女。
「・・・・・・っ、」
見たくない。
真っ黒な感情がぐるぐるとお腹の底から込み上げてきて、すっと2人から視線を逸らした。
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