番外編 君ありて | ナノ
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▽ 1-1



※ キャラの年齢設定がゆるっとしてます。苦手な方はご注意ください。




騙された。


大学の友人に誘われてやってきた飲み会。女子会だと聞いていたにも関わらず、案内された席には知らない男の人が4人。


近くにいた友人の腕を引き、その耳に顔を寄せた。


「っ、女子会じゃなかったの?」
「ホントごめん!!どうしても女の子足りなくて。今回だけ!!お願い!!!!」


結局、切実な顔で頼み込む友人を断りきれなかった私はそのまま端の席につく。


机の下で携帯を取り出し、研ちゃんにメッセージを打つ。


『友達とご飯食べに来たんだけど、女子会って聞いてたのに合コンっぽくて・・・。適当なタイミングで帰ろうと思う、ごめんね』


暫くすると短く携帯が震え、画面には研ちゃんの名前。


『謝らなくていいよ、付き合いもあるだろうし。連絡ありがとな』

研ちゃんが怒るわけないって分かっていても、少しの不安も与えたくない。


隙を見てさっさと帰ろう。


話しかけてくる男の人を適当にかわしながら、そんなことを思うのだった。


運ばれてきた料理も疎らになり、それぞれ話も盛り上がってきた頃。


「じゃあ二次会でカラオケでも行こうか!」
「賛成〜!」


1人の男の人がそう言うと、他のみんなもそれに賛成して会計の流れになる。


会計を済ませた私達はそのまま店の外に出る。しれっとその輪から抜けようとしていた私の腕を引いたのは、合コンの最中ずっと私に話しかけてきていた男の人だった。


「なまえちゃんもカラオケ行くよね?一緒に歌お〜!」
「っ、」


その距離の近さにぞわり、と背中が粟立つ。研ちゃんじゃない男の人に触れられることが気持ち悪い。

振り払おうとしたけど、男の人の力には勝てなくて。


その時、誰かが私と彼の間に割って入った。


「先輩!あっちで××さんが呼んでましたよ!」
「まじ?じゃあなまえちゃん、後でな!」

ぱっと私の腕から手を離すと、輪の中に戻っていく彼。


私は助けてくれた彼へと向き直る。



「あのっ、ありがとうございました」
「いや、こちらこそ先輩がすいません・・・。普段はいい人なんですけど、今日ちょっと飲みすぎてるみたいで」


まるで自分のことみたいに申し訳なさそうに謝る彼。そういえばこの人、飲み会の最中もずっと端の席で皆の料理やお酒に気を配ってたっけ。


少し気が弱そうだけど、優しそうな雰囲気の人だった。確か名前は・・・・・・、



「みょうじさん、良かったらこのままここで抜けませんか?」
「え?」
「あ、いや!変な意味じゃなくて!ずっと時計気にしてたし、早く帰りたいのかなって・・・!1人で抜けたらあれだし、2人なら自然かなと!あ、ちゃんと駅まで送ります!」


あたふたと少しだけ赤い顔で早口で話す彼に、思わずふっと吹き出してしまう。


さっきの人と違って目の前の彼からは下心なんて少しも感じられない。


「ふふっ、じゃあお願いします」

小さく頭を下げると、彼も慌てて同じように頭を下げた。




駅までの道を彼と他愛もない話をしながら歩く。どうやら彼も人数合わせで先輩に半ば強引に合コンに連れてこられたらしい。



「へぇ、高木くんも警察官目指してるんだね」
「はい!他にも誰か知り合いで警察官を目指している方が?」
「あ、ううん。目指してるっていうか、私の彼氏が警察官なんだよね」


早く帰りたかった理由を話した流れから、研ちゃんの話になりお酒のせいもあって饒舌になる。


うんうん、と研ちゃんの話を聞いてくれることが嬉しくて。すごいですね、って褒めてくれるからそれが自分の事のように嬉しい。


しばらく歩くと駅の明かりが見えてきた。


「あっ、ここでいいよ!送ってくれてありがと・・・・・っ、!」

立ち止まった拍子高いヒールと酔いのせいで思わずよろけた私は、隣にいた高木くんの腕を思わず掴む。


「大丈夫ですか?!」
「うん、ごめんね・・・」


肩を支えてくれる高木くんに謝りながら、体勢を立て直す。


「家の近くまで送りましょうか?」
「ううん、大丈夫。ありがとね」


飲み会の最中、会話に加わるのが面倒でお酒に逃げていたのが仇となったらしい。

年下の子にかっこ悪いところを見せてしまった。ふわふわとした酩酊感を誤魔化すように、彼に笑顔を向けた。






人の多い駅前で、すぐになまえの姿を見つけることのできる自分が今日だけは少し嫌になった。


飲み会をする場所は聞いていたし、解散したら連絡があるだろうと仕事終わりに迎えに来た駅前。


なまえの隣には知らない男。楽しげに笑う2人から目を逸らせなかった。



「はぁ・・・、我ながら心が狭いねぇ」

ハンドルに両手をつきながらこぼれたそんな独り言。


別になまえが浮気するなんて思ってない。


ただの嫉妬。


その時、ぐらりと傾いたなまえの体。それを支えたのは隣の男。


・・・・・・・触るのはナシっしょ。かといって転んで怪我しても困るか。


はぁともう1度ため息をつくと、車をおり2人の元へと向かった。



「なまえ」

近付き名前を呼べば、ぱっと振り返るなまえ。驚いたような表情は一瞬で、すぐに大きな目を細めて嬉しそうに笑う。



「研ちゃん!何でここにいるの?」
「そろそろ飲み会終わるかなーって迎えに来ただけ」


隣にいた男から離れ、ばっと俺に抱き着いてくるなまえを受け止めその髪を撫でる。


そんななまえを見て、頬を赤く染めながら視線をさ迷わせる男。


「なまえのこと、送ってくれてありがとね」
「っ、いえ。じゃあオレはこれで失礼しますね」
「高木くん!ありがとね!」


高木くん、ねぇ。

ニコニコとした笑顔で彼に手を振るなまえ。


そんななまえに人あたりの良さそうな笑顔で頭を下げる彼。


「ふふっ、研ちゃんだ〜」
「酒飲んでる?」
「内緒〜♪」


上機嫌で胸元に頭を寄せるなまえから香る酒の匂い。


可愛くて目尻が下がる反面、俺のいない場所で知らない奴と楽しげに笑っていたことは面白くなくて。


「ホント、無防備すぎるんだよな色々と」


小さく呟いた言葉はなまえの耳には届くことなく、駅前の人の喧騒に消えていった。

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