▽ 1-1
※ 一部、カミサマ、この恋をとのクロスオーバー要素含みます。ゆるっとした時系列、人間関係になりますのでご了承ください。
偶然の再会。
それはまさに今のこの状況のことだろう。
ある日の大学の帰り道。
友人と別れ、ふらふらと駅前の店を眺めながら歩いていた時だった。
「あれ?なまえちゃん?」
不意に後ろから声をかけられて振り返ると、そこには前回のスーツとは違いラフな私服姿の諸伏さんが立っていた。
「やっぱりなまえちゃんだ。今日は一人で買い物?」
「お久しぶりです。そんな感じですね!諸伏さんもお買い物ですか?」
「まぁ買い物は買い物なんだけど・・・・・・ね、」
初めて会った時と同じ人あたりのいい優しそうな笑顔。自然とつられてこちらの表情も緩む。でも今日の彼の笑顔は少しだけ困ったような影を含んでいた。
成り行きで二人並び歩きながら、彼の話に耳を傾ける。
「なるほど。彼女さんの誕生日プレゼントかぁ」
「何が欲しいか聞いてみたんだけど、なんでも嬉しいって言うもんだから困っちゃってね」
「幼馴染みなんですよね、その彼女さん。あ!降谷さんに探り入れてもらうとかは駄目なんですか?」
「あー、零はそういうの苦手というか下手というか・・・」
苦笑いを浮かべる諸伏さん。なんだか意外だ。降谷さんのイメージだとそういうの得意そうなのに。
それにしてもこうやって彼女の為に忙しい合間をぬってプレゼント探しなんて、愛されてるなぁなんて自然とこちらまで温かい気持ちになる。
「それにせっかくのプレゼントだからオレが決めたものをあげたくてね」
そう言って少しだけ恥ずかしそうに頬をかく仕草に、きゅんとしない女の子はいないだろう。
「候補とかはないんですか?好きなブランドとか!」
「あるにはあるんだけど、さっきそのお店に寄ってみたら女の子ばかりで男一人で入るのもなぁと思って引き返したところでさ」
諸伏さんの口から出たのは最近私の周りでも流行っているアクセサリーブランドの名前。
たしかにあのキラキラしたお店に男性一人で入るのはなかなか勇気がいるだろう。
「私でよければ付き合いますよ?諸伏さんが嫌じゃなければ!」
「ホント?!すごく助かるよ」
ぱぁっと明るくなる表情。どうやら私でも役立てそうだ。
「研ちゃんにメッセージだけ入れときますね」
「あぁ。オレからも連絡しておくよ」
そのお店に向かいながらお互いに携帯を触る。
わざわざ連絡するほどのことではないのかも知れないけれど、この前の一件もあったので念の為だ。
『大学終わって買い物してたら諸伏さんに会って、少しだけ買い物付き合ってから帰るね!彼女さんのプレゼント選びらしくて。また帰ったら話すね!』
まだ仕事中であろう彼に端的にまとめた文章を送る。
隣で諸伏さんもメッセージを送り終えたようで、携帯をポケットにしまっていた。
白と青を基調としたキラキラとした店内。若い女の子が多いそこは、たしかに彼一人では入りにくかっただろう。
二人で店内に入りショーケースを眺める。
ここまで来れば、私が口出すことはないだろう。
半歩後ろで店員さんと話ながらアクセサリーを見る諸伏さんの後ろ姿を眺める。
その横顔はとても真剣で、彼を深く知らない私にすらその彼女への深い愛情が伝わってくる。
「・・・・・・なんか研ちゃんに会いたくなったかも」
ぽつりとこぼれたひとりごと。
なまえ、と優しい声で名前を呼んで抱きしめてくれるあの人に会いたくなった。
*
立て続けに震えた携帯。
一通目はなまえ。
そして二通目は・・・、
「諸伏ちゃんから?珍しいな」
降谷ちゃんと同様、忙しい彼からの連絡は珍しいもの。
まずなまえからのメッセージを開く。
『大学終わって買い物してたら諸伏さんに会って、少しだけ買い物付き合ってから帰るね!彼女さんのプレゼント選びらしくて。また帰ったら話すね!』
あぁ、なるほど。
だから諸伏ちゃんからも連絡がきてたのか。
『了解』のスタンプを送ると、そのまま諸伏ちゃんからのメッセージを開く。
『久しぶり。街でなまえちゃんに会ったから少し借りるね。帰りはちゃんと送るから』
こうして律儀に連絡をよこすところが、諸伏ちゃんらしい。
彼にも返事を送り、仕事へと戻る。
この時は気にもとめてなかったんだ。
別に諸伏ちゃんとあいつに何かあるわけがないし、彼ならきちんと送り届けてくれるだろうという信頼だってある。
定時まであと一時間。
イレギュラーな事件が起きないことだけを切に願った。
無事に定時で仕事が終わり、車に乗りこみ向かうのはなまえの家。
途中の赤信号で『今から帰る』となまえにメッセージを送る。
あのメッセージのあと、二人からの連絡はないところを見るとまだ買い物中なのかもしれない。
車を駐車場に停め、マンションまで歩いているとエントランスの前にとまる一台の車。
運転席のドアにもたれるように立っていたのは諸伏ちゃん。そして前で楽しげに笑うのはなまえだった。
既視感、というのだろうか。
いつだったか、陣平ちゃんとなまえがあぁして話していたことに嫉妬したことがあった。
けど諸伏ちゃんの前で笑うなまえを見た瞬間、あの時以上のどろりとした黒い何かが胸を巣食う。
ガキだなぁ、俺も。
その何かの正体なんて分かりきっていて、ふっと呆れたような笑いがこぼれた。
そんなことを考えていると、諸伏ちゃんの伸ばした手がなまえの頭に触れる。
頭を撫でるその手をすんなりと受け入れたなまえは、俺に向けるような笑顔で彼を見上げる。
「なまえ」
気が付くと俺は、そんな二人の間を割くように彼女の名前を呼んでいた。
「あ!研ちゃん!おかえり」
「久しぶりだな、萩原。お疲れ様」
俺の声に二人が振り返る。
駆け寄ってきたなまえが、いつものようにぎゅっと俺の腕に抱きつく。
何かを上書きするように、そんななまえの頭を撫でながら諸伏ちゃんと交わす他愛もない会話。
俺達の顔を交互に見ながら話を聞くなまえは、やっぱり楽しげで。
「じゃあまた今度五人で集まろうか」
「あぁ。陣平ちゃんにも声掛けとくよ」
諸伏ちゃんはそう言うと運転席のドアに手をかける。
バタン、と閉まるドア。エンジン音が響き、運転席の窓が開く。
「なまえちゃん、今日は付き合ってくれてありがとね。おかげでいい買い物ができたよ」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「萩原も、大事な彼女借りて悪かったな」
そう言いながら小さく手を振り、去っていく車をなまえと二人で見送った。
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