番外編 カミサマ | ナノ
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▽ 1-1



『同窓会のお知らせ』

そんなハガキを机の上に置いたままにしておいたことが、全ての始まりだった。





「ねぇ、ヒロくん。同窓会あるの?」

大学終わり、オレの部屋に遊びに来ていたなまえが、机の上のハガキを見つけてこてんと首を傾げる。

すっかり忘れていたそのハガキの存在。


「あぁ、忘れてた。零が行くなら行こうかなと思ってるよ」
「・・・・・・そっか」

オレの言葉に露骨にしょぼくれたようにテンションの下がるなまえ。耳としっぽがついてるなら、しょぼんと項垂れているだろう。

分かりやすい彼女の反応に小さく笑うと、なまえの隣に座り直す。


「嫌?同窓会行くの」

俯くなまえの顔を覗き込みながら尋ねると、難しい顔をして首を振る彼女。


素直なのか、素直じゃないのか。


その反応すら可愛く思えるのだから、こんなところ零に見られたら呆れられるだろう。


「なまえ」
「・・・・・・」
「ほら、おいで」

くしゃりと頭を撫でながら腕を広げると、甘えるようにすっぽりと腕の中に収まる小さな体。

ぽんぽんと背中を一定のリズムで叩いていると、上目遣いでオレを見上げるなまえと視線が交わる。


「ん?」

僅かに顰められたその顔が可愛くて、彼女の本心に気付かないフリをする。


「・・・・・・同窓会って女の子も来る?」

小さく呟かれたその言葉に、ふっと口元が緩みそうになる。


「多分クラスの奴らは来ると思うよ」
「・・・・・・」


あからさまにヘコむその姿は可愛い。けどオレが一番好きなのは、笑顔のキミだから。

いじめ過ぎたと反省しながら、俯きかけた彼女の頬に手を添える。


「なまえが嫌なら行かないよ」

別に取り立てて会いたい存在がいるわけじゃない。

なまえを不安にさせてまで行く必要があるとは思えなかった。



「・・・・・・同窓会は行ってきて。せっかく友達と会える機会だもん」
「嫌じゃないのか?」
「約束だけ、してほしい」


ぎゅっと抱きついてくるなまえ。
普段強がりな彼女が、こんな風に甘えてくるのはきっとオレだけ。胸の中が温かくなる。


「女の子の隣に座っちゃヤダ」
「うん」
「連絡先もなるべく交換して欲しくない」
「うん」
「他の子に優しくするのもヤダ。ヒロくん皆に優しいから女の子はすぐ好きになるもん」
「ははっ、そんなことないけどな」
「私以外の子にぎゅってしちゃヤダ」
「しないよ、そんなこと」


それは可愛いお願い達。
零が聞いたら呆れて笑うだろう。


「ちゃんと聞かれたら彼女いるって言ってくれる?」

不安げに揺れる瞳と視線が交わる。


「隠すわけないだろ。それに仲良い奴らはみんななまえのこと知ってる」
「綺麗な人がいても同窓会マジックとかならない?」
「昔好きだった子と久しぶりに会ってってやつ?」

こくんと頷くなまえは、至って真剣な表情。


昔好きだった子。

そんなの・・・・・・、


「子供の頃からずっとなまえのことが好きだったんだよ?だからそんな可能性あるわけない」
「っ、」

カッっと赤くなるなまえの頬をそっと撫でる。可愛い。たまらなく愛おしいと心から思った。

ずっと、ずっと、なまえ以外なんて興味がなかった。


たった一人の、大切な女の子。



「不安は解消されたかな?お姫様」
「・・・・・・我儘言ってごめんね・・・?」


なまえの我儘なんて可愛いもの。

オレはなまえに弱いから。
お前のお願いや我儘は、全て叶えてやりたいって思うから。


別に同窓会だって行かなくていい。
でもここで行かない選択をすれば、なまえは変に気を遣うだろうから。


見ず知らずの誰かにヤキモチを妬く姿は、どこまでも可愛くて。


「少し顔出したら直ぐに帰るよ。それでそのままなまえに会いに行く」
「・・・・・・いいの?」
「うん。オレが会いたいから」


背中に回っていたなまえの腕に力が入る。


「ヒロくん大好き」
「オレも。なまえが好きだよ」


ヤキモチ妬きで素直じゃなくて、時々子供みたいになる甘えたなキミがオレは大好きだから。


甘やかしすぎ。

零にはよく怒られるけど、オレの手で叶えてやれることなんかたかが知れてる。

だからこそ望むことは、全て叶えてやりたいんだ。


腕の中で幸せそうに笑う宝物のような女の子。いつまでもこの笑顔を隣で見られますように。


そんなことを心の中でそっと願った。





────────────────



「あれ?諸伏の奴、もう帰ったのか?」

同窓会当日。
早々に姿を消した景を探す同級生に声をかけられる。


「あぁ。用事があるらしくて、さっき帰ったよ」
「まだ始まったばっかじゃねぇか。俺一瞬しかあいつと喋ってねぇし」
「俺も久しぶりって挨拶しただけだわ」

早すぎる奴の帰宅を惜しむ同級生達を横目に、帰り際の景の姿を思い出す。



「ごめん、零。早いけどそろそろ帰るよ」
「もう帰るのか?まだ始まったばっかだろ」
「皆に挨拶はできたし、なまえが寂しがるからさ」
「寂しがるって・・・・・・、たった数時間だろ」
「それでも、だよ。オレもあいつに会いたいしね」
「分かった、皆には説明しとくよ」
「助かるよ、サンキュ」


どこまでもなまえに甘い景の姿に、ふっと笑みがこぼれた。



Fin


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