番外編 カミサマ | ナノ
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▽ 1-1


※ 君ありて幸福とのクロスオーバー要素含みます。ゆるっとした時系列、人間関係になりますのでご了承ください。短編 get jealousの内容を含むので、そちらを先にお読みください。萩原さんsideのお話とリンクしてます。



「見て見て!ヒロくん!大学の友達にもらったの!」

1週間ぶりに会うなまえは、鞄の中から何かを取りだしそれを俺に見せてくる。


彼女の手にはイルカやペンギンの描かれたチケットが4枚。


「水族館のチケット?」
「うん!その子がバイト先で貰ったらしいんだけど、忙しくて行く時間ないからってくれたの」
「そうなんだ。水族館なんて久しく行ってないなぁ。せっかくだし明日行く?」
「いいの?ヒロくん仕事は?」
「明日は休み。元々なまえと過ごすつもりだったし」


ぱぁっと笑顔になった彼女は、嬉しそうに抱きついてくる。

最近忙しくて家で会っても過ごすことが多かったし、我慢させてるんだろうなって申し訳なくなる。でもそれを口にしたら彼女は、「そんなことないよ!」って言うのが分かっているから。


「久しぶりにデートできるね!嬉しい!」
「オレもだよ」

謝罪の言葉の代わりに、くしゃりとその髪を撫でた。



「あ、でもチケット4枚あるんだっけ?誰か誘う?」
「明日平日だし、誘える人・・・・・・うーん・・・、零は仕事だよね?」
「うん、そうだね。誘える人、かぁ」


何かと忙しい幼馴染みは、曜日問わず忙しいから却下だ。

なまえのことを知っていて、平日に休みの可能性がある奴・・・・・・、そこまで考えて頭を過った1人の同期。


「1人いたかも。聞いてみるね」
「私も知ってる人?」
「うん。会ったことある人だよ」

机の上に置いていた携帯に手を伸ばし、電話をかける。



『はいはーい♪ 諸伏ちゃんから電話なんて珍しいね』
「今電話大丈夫か?」
『もちろん。何かあったのか?』

数回のコール音の後、聞こえてきたのは昔から変わらない明るい萩原の声だった。


「明日って何してる?仕事?」
『いや、明日は休み。彼女とどっか行こうかなぁって考えてたとこ』
「もしよかったらさ、」


水族館のチケットが4枚あること。もしよかったら萩原の彼女も含めて4人で行かないか?そう誘えば、萩原は楽しげに頷く。


『水族館とか久しく行ってねぇし楽しみだわ。アイツもそういうの好きだし誘ってくれてサンキュ♪』
「オレの方こそ急だったのにありがと。じゃあ明日10時くらいでいいか?」
『おう!諸伏ちゃんの家の近くまで迎えに行くよ。なまえちゃんにもよろしく伝えといて』


ぷつりと切れた電話を机に戻すと、隣にいたなまえと視線が交わる。


「電話の相手、萩原さん?」
「うん。なまえのこと知ってて平日休みな可能性ある奴って萩原しか思いつかなかった」
「久しぶりだなぁ、萩原さんに会うの!彼女さんも一緒に来れるって?」
「2人でこっちまで来てくれるって」
「楽しみ!萩原さんの彼女さんって、私の誕生日プレゼント選びの時に言ってた子でしょ?」
「そうだよ。あの時買い物に手伝ってくれた子」
「ずっと会ってみたかったんだ♪ あの萩原さん落とす子って想像できないもん」


なまえの中での萩原のイメージってどんななんだろ、と心の中で突っ込みながらもニコニコ笑う彼女が可愛くて自然と目尻が下がる。


「萩原のとこも幼馴染み同士らしいからね」
「ふふっ、明日が楽しみ!」





翌日、待ち合わせのコンビニの前。

まだ少し冷たい風に肩をすくめながら、ヒロくんと話していると1台の車が目の前に止まる。


「おはよーう!♪ 2人ともお待たせ!今日は誘ってくれてありがとね」

運転席の窓が開き、片手をあげる萩原さん。その奥で小さく頭を下げる女の子。


顔小さっ!!!てか綺麗な子!!!それが彼女の第一印象だった。


後部座席に乗り込むと、最近流行りの音楽が流れる車の中。

コンビニで買った飲み物達をヒロくんが彼女さんに渡すと、彼女は綺麗な顔で「ありがとうございます」と笑う。



「久しぶりだね。あ!紹介するよ。なまえ、ほら、挨拶は?」
「あ、うん!初めまして、みょうじ なまえです。今日は急だったのに付き合ってくれてありがとうございます」
「っ、こちらこそ誘ってくれてありがとうございます。研ちゃんから話聞いて、私もすごく楽しみだったから」


少しだけ緊張した様子だけど、目尻を下げて柔らかく笑う彼女。


研ちゃん

萩原さんそう呼ばれてるんだ、なんて思わず頬が緩みそうになる。


思えばこんな風に友達カップルと出掛けるなんて初めてのことだ。他愛もない話で盛り上がる車の中。


私と萩原さんの彼女さんは同い年ということが分かり、お互いの敬語が崩れ距離が少しだけ近付いた気がする。


萩原さんと彼女さん。
2人を見ていて気付いたことがある。


水族館につき、車を降りると隣にいたヒロくんの服の袖を小さく引いた。


「どうかした?」
「萩原さんってさ、めちゃくちゃ彼女さんのこと好きなんだね」
「ははっ、たしかに。仲良いよね、あの2人」
「何か萩原さんって初めて見た時は誰にでも優しいし軽いイメージだったけど、全然違うね。彼女さんのこと見る目が、他の誰に向けるより甘くて優しい感じ」
「たしかに萩原は人当たりいいし、優しい奴だけどあの子に対しては別格かもな」


運転中もずっと2人の手は繋がれていて、自然なそれは普段からそうしているんだろう。


今も、「寒くないか?」って彼女さんに尋ねる萩原さんの横顔は優しくて、あぁ、すごくこの子のこと大好きなんだなって初めて2人を見る私にもそれが伝わってきた。


「色々あったらしいからな、付き合うまでに」
「そうなの?」
「ただ松田が言うには、萩原は子供の頃からずっと彼女のことしか眼中になかったらしいよ」
「ふふっ、私と一緒だね」
「オレだってなまえしか見てなかったよ?」
「っ、」


ヒロくんはこうやって素直に気持ちを伝えてくれるから。一気に顔に熱が集中する。

何年経っても慣れることはなさそうだ。



「そこのバカップル!置いていくぞ〜」

ひらひらと手を振りながら叫ぶ萩原さん。ヒロくんとぱちりと視線が合い、なんだかそれがおかしくて2人同時に吹き出した。


「行こうか」
「うん!」


繋がれた手が温かくて、幸せな気持ちで胸が充ちた。





館内を見終わり、トイレに向かった私。トイレから出ると、すぐ隣にある喫煙所から出てきた萩原さんと出くわした。



「今日は誘ってくれてありがとね。アイツも楽しそうにしてたし、俺も楽しかったよ」

ヒロくん達の待つお土産ものコーナーまで並び歩いていると、彼はそう言って笑う。


人当たりのいい笑顔。でも彼女に向けるものとは少しだけ違う。それに今の一言だってそうだ。彼女が楽しんでた、その事実が彼にとって1番大切なんだろう。


「私、萩原さんのことちょっと誤解してた気がします」
「誤解?」
「もっとチャラチャラした感じかなって思ってました」
「ははっ、ひでぇな、それ」
「でも今日、彼女さんといるの見たらそんなイメージはすぐになくなっちゃいました。大好きなんですね、彼女さんのこと」
「まぁね。なんか面と向かって言われると照れるなぁ」


素敵な関係だなって、心から思ったんだ。


そんな話をしていると、お土産ものコーナーへと戻ってきた。

イルカのぬいぐるみの前で何かを悩んでいる彼女。それを見た萩原さんは、くすりと笑い「ちょっと行ってくるわ」と彼女の元へと向かう。


私は入口近くにあるペンギンのキーホルダーが目にとまり、それに手を伸ばした。


ピンクのリボンと水色のリボン、色違いの2種類のペンギン。ヒロくんとお揃いで欲しいなぁ、なんて思っていると後ろから声をかけられる。


「なまえ」
「ヒロくん!」

ぱっと振り返ると、そこには私がちょうど見ていたペンギンのキーホルダーを片手に持ったヒロくんがいた。



「そのペンギン・・・」
「あぁ、これ?なまえこういうの好きだろ?色違いであったし買おうと思って。他に何か欲しいやつある?」


同じことを考えていたことが嬉しくて、きっとこれが萩原さん達と一緒じゃなかったら抱きついていたと思う。


きゅっと心臓の奥を掴まれたみたいな感覚。


「ねぇ、ヒロくん」
「ん?」
「私、ヒロくんのこと大好きだよ」
「ははっ、急にどうしたの?オレも好きだよ」


好きな人に好きと伝えられる。たまらなく好きな人が自分のことを好きだと言ってくれる。


きっとそれは奇跡に近いこと。


抱きつく代わりに、ヒロくんの手をぎゅっと握った。






萩原さん達と別れ、ヒロくんの家に帰ってきた私達。


お互いの家の鍵には、買ったばかりのペンギンのキーホルダー。


お揃いが嬉しくて、何度もそれを手に取り眺めてしまう。


ソファに座り、両手でペンギン達をゆらゆらと持ち眺めていると背後から温もりに包まれる。


「ヒロくん?」
「抱きしめたくなっただけ。しばらくこのままでいてもいい?」


胸の前にある彼の腕に触れる。

首筋に感じる吐息に、心臓の音が早くなる。


「ヒロくん」
「ん?」
「また水族館行こうね」



Fin


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