▽ 1-3
ため息をついたヒロくんは、いつもより少しだけ赤い頬で私に携帯の画面を見せた。
「・・・・・・まじで恥ずかしいからあんま見ないで」
画像が並ぶその画面。
講義のノートの写真や、零とふざけている写真。それに混じるのは・・・・・・、
「・・・・・・私?」
ヒロくんの携帯で撮った2人での写真とは別に、私1人が映る写真達。
それは机に伏せて寝ている横顔だったり、どこかの道を歩いている後ろ姿だったり。
どれもカメラ目線ではないものばかり。
「・・・・・・可愛なって思って。気がついたらなまえのこと撮ってた」
「っ、」
「なんか照れくさい気がして・・・さ。だからあんま見られたくなかったんだよ。不安にさせてごめん」
いつも大人で落ち着いているヒロくんが、どこか気恥しそうに視線を逸らす。
ごめん、なんて謝られること・・・ひとつもないよ。
込み上げてくるのは、目の前の彼への愛おしさ。
私は携帯を机の上に置くと、そのままヒロくんに飛びついた。
「っ、」
「ヒロくん大好き!大大大好き!!」
「ははっ、オレもだよ」
ぐりぐりとその胸に頭を寄せると、くしゃりと髪を梳く温かい手。
私は近くに置いてあった鞄から自分の携帯を取り出し画像フォルダを開いた。
「・・・・・・?」
「私達、同じことしてるね」
「っ、」
不思議そうに首を傾げたヒロくんにその画面を見せる。
そこにはベッドで眠るヒロくんの横顔や、待ち合わせ場所で私を待つ彼の後ろ姿が映されていた。
その一瞬、一瞬がたまらなく愛おしいから。
切り取って、思い出として残したくなるんだ。
「ねぇ、ヒロくん」
「ん?」
「私以外の子に迫られても、コロッと落ちたりしない?」
「ははっ、なまえ以外の子に触れたいなんてオレが思うと思う?」
「・・・・・・すごく可愛くてヒロくんのタイプの子かもよ?」
「オレのタイプは、この世でたった1人だけだから」
ちゅっ、っと瞼に落とされた口付け。
柔らかく笑うヒロくんが私を見る目は、どこまでも優しくて、愛おしさが滲む。
「なまえだけだよ。こんなに好きだと思う相手は」
ヒロくんの手が私の頬に触れる。瞼に触れていた唇が、首筋に寄せられる。
優しく首筋をなぞる舌に思わず身をよじる。
「触れたいって思うのも、ね」
悪戯っぽく笑った彼の瞳は、さっきまでとは違う熱を孕んでいた。
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「景が浮気?ありえないだろ」
「ははっ、そうなんだけどね。友達が浮気が原因で彼氏と別れたばかりだったから、少し不安になったみたい」
その時のなまえを思い出しているのか、楽しげに笑う景。
誰よりも近くでずっと2人を見てきた。
景が浮気なんてするわけないし、逆もまた然り。
「でもそれが原因でなまえの寝顔とか写真撮ってたのバレてさ。あれは少し恥ずかしかったな」
そう言えばコイツら2人ともお互いのこと、昔からコソコソ写真取ってたっけ。
「ねぇ、見て!零!このヒロくんカッコよくない?」「なぁ、零。このなまえ、可愛いだろ?」思い出すのは、いつかの2人の台詞。
「・・・・・・似たもの同士もいいところだな」
ふっと笑った俺を見て、景は不思議そうに首を傾げていた。
Fin
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