▽ 1-2
部屋に入ってからどこか落ち着きのないなまえ。ちらちらと俺の方を見ていたかと思うと、その視線はすぐに別の方向へと逸らされる。
彼女の視線の先には、俺の携帯があった。
「さっき話してた友達がね、昨日彼氏と別れたんだって。なんか浮気が原因らしくて・・・」思い出すのは、帰り道のそんな会話。
伊達に付き合いが長いわけじゃない。
なまえの頭の中くらい少し考えれば分かること。
ホント、可愛い奴。
恐らく彼女が考えているであろうことに、ふっと口元に笑みが浮かぶ。
ノートパソコンを触っていた手を止め、なまえの方へと向き直る。
「課題、終わったの?」
「ちょっと休憩しようかなって。おいで」
そっと腕を軽く広げると、ふわりと笑ったなまえが胸にすっぽりとおさまる。
腰に回された腕にぎゅっと力が入る。
甘えるように胸元に擦り寄るなまえの髪を撫でながら口を開く。
「携帯、気になる?」
「っ、」
「ははっ、ホント分かりやすい」
びくり、と跳ねるその小さな肩。分かりやすいその反応に思わず笑みがこぼれた。
左手を伸ばし携帯を手に取ると、そのままなまえに渡す。
「心配ならいつでも見ていいよ」
「っ、ヒロくんのこと疑ってるわけじゃないの・・・!」
「わかってるよ、そんなこと。でも気になるんだろ?」
「うぅ、それは・・・」
「別に怒ってないから。なまえのこと、少しでも不安にさせたくないから言っただけ」
「ヒロくん・・・」
子犬みたいな顔でオレを見上げるなまえ。その手が携帯に触れる。
見られて困るものなんてひとつもないし、別に疑われたなんて少しも思ってない。ただ身近な恋の終わりを見て、不安になっている彼女を安心させたいだけのこと。
メッセージのやり取りをしているのは、ほとんど男友達。頻繁に連絡をとっているのは零となまえ。電話も同じだ。
「安心した?」
「うん。・・・・・・なんかごめんね」
申し訳さそうに眉を下げたなまえが俺に携帯を返そうとした時、彼女の手が画面に触れた。
開かれたのは画像フォルダ。
「!!」
「っ、ごめん!」
思わずばっと、画面を隠したオレに謝るなまえ。
その瞳はさっきまでとは違い不安げに揺れていて。
あぁ、違う。最悪だ。
絶対勘違いしてる・・・・・・。
「ごめん!何も見てないから・・・」
「いや、そうじゃなくて。見られて困るとかはないんだけど」
「いいの!ヒロくんだって見られたくないものくらいあるよね!全然大丈夫だから!」
早口でそう告げる彼女の大丈夫≠ヘ、間違いなく大丈夫じゃない。
不安を取り除きたかったのに、余計な心配を与えてしまった。
はぁ、最低だ・・・何やってんだオレ・・・。
小さくため息をつくと、そのまま画像フォルダを開き画面をなまえに見せた。
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