番外編 カミサマ | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▽ 1-1



※ 組織潜入後、2人が別れなかったif≠フお話です。ゆるっとした時系列、人間関係になりますのでご了承ください。



最近ヒロくんも零も、隠し事が多い。2人の仕事を考えれば仕方ないって頭では分かっていても、やっぱりそれは私の中に小さな不安の影をおとす。



「ごめん、なまえ。午後から出かけなきゃ駄目になっちゃって・・・。また次の休みに埋め合わせするから。ホントごめん・・・」
「大丈夫!お仕事だもん、仕方ないよ」


久しぶりの休み。ヒロくんとデートの約束をしてたけど、急に仕事が入りその約束は叶わぬものとなった。


本気で申し訳なさそうな顔で謝るヒロくんに怒る気なんておきるわけがなくて、ただ少し寂しいだけ。


それでもヒロくんはその寂しさごと抱きしめてくれるから。



「気をつけてね。行ってらっしゃい」
「また後で連絡するよ」


今日も笑顔で、大きな荷物を背負ったその背中を見送るんだ。







家に1人でいるのは寂しくて、友人を誘ってやって来たのは新しくできたカフェだった。


路地裏にあるオシャレなカフェのテラス席。秋の匂いのする少しだけ冷たい風を感じながら、他愛もない話をしていると寂しさも僅かに和らぐような気がした。


久しぶりということもあって、友人との話は盛り上がり気がつくと空はすっかり茜色に染まっていた。


「そろそろ行こっか。彼氏帰ってくるの遅いならご飯でも食べに行く?」
「まだ連絡ないし遅くなるのかも。軽くなにか食べにこっか」


空になったカップを捨てるため立ち上がる。その時、向かいのカフェに座る影に目が止まる。



「っ、」
「なまえ?」


ぴたりと固まった私を見て友人が名前を呼ぶ。その声にはっとした私は、手に持っていたカップをゴミ箱に捨てくるりと友人の方へと向き直る。


止まった思考を誤魔化すように。友人にあれこれ話しかけるけど、さっき見た光景は、頭にこびりついて離れてくれなくて。



向かいのカフェにいたのは、間違いなくヒロくんだった。机の上に置かれた何かを覗き込むように、彼と顔を突き合わせていたのは長い黒髪の女の人。


親密そうな2人の距離感は、遠目からでも分かった。



仕事だと。

頭では分かっていた。ヒロくんが私を裏切るなんて有り得ないから。


それでも実際それを目の当たりにすると、ばくばくと心臓は嫌な音をたて手先は温度をなくしていく。


「なまえ?さっきから顔色悪いけど大丈夫?」
「っ、うん。大丈夫・・・!てかやっぱり今日飲みに行かない?」
「私はいいけど彼氏大丈夫なの?」
「うん!久しぶりに飲みたいし付き合って」


1人になりたくなくて。

あの部屋でヒロくんを待つのが今日だけは寂しかった。


私は逃げるように友人と繁華街のネオンに足を進めた。





思ったよりも任務が早く終わって、なまえの家に帰るとそこに彼女の姿はなかった。


時計の針は23時半。携帯になまえからの連絡はなくて。


なまえだっていい大人だ。別にこの時間まで出歩いていたって不思議じゃない。それでも今まで連絡もなしにこんなことはなかったから。


どうしたものか、と考えているとプライベート用の携帯が鳴る。


そこには少し前に解散した幼馴染みの名前があった。



『もしもし、今どこにいるんだ?』
「なまえの家に着いたところだけど、何かあったのか?」
『だったらちょうどいいや。今・・・、「ちょっと、零!!電話しないでって言ったじゃん!」』

ガヤガヤとした喧騒の中、零の声を遮るように聞こえてきたのはなまえの声だった。


穏やかとは言えないその声色と内容に思わず眉間に皺が寄る。


『うるさい、酔っ払い。・・・・・・景?今×××って店の近くにいるんだけど、コイツ迎えに来てやってくれないか?』
「・・・・・・っ、あぁ。それはかまわないけど、一体どういう状況なんだ?」
『俺も詳しくは分からない。まぁとりあえず頼んだぞ』


それだけ言うとプツリと切れた通話。零がなまえと一緒にいることは別になんの問題もない。


酔っているらしいなまえ。俺に電話をしないでくれと言う彼女の言葉が脳内で繰り返される。


考えていても仕方ない。

俺は脱ぎかけていた上着を羽織ると、そのまま車の鍵を手に取った。






不安や嫉妬を誤魔化すようにお酒を煽っ結果、ほろ酔いといえない程度には酔っ払ってしまったらしい。


ふらふらとした酩酊感の中、友人別れ繁華街を歩いていると後ろから聞き慣れた声で名前を呼ばれる。


「おい、なまえ」
「・・・・・・げ、零・・・!」
「げ、じゃない。こんな時間に1人で何してるんだ?・・・それにお前、飲みすぎだろ」


呆れたように眉間に皺を寄せると、零は私の腕を掴む。

お説教モードに入りそうな彼の言葉を遮ろうと口を開きかけるも、零が言葉を続ける方が早かった。


「とりあえず景に電話して迎えに来てもらうぞ。アイツもう仕事終わってるはずだから」
「っ、待って!ヒロくんには・・・っ」


私の言葉を無視してヒロくんに電話をかける零。その電話はすぐに終わり、顔を顰めた零と視線が交わる。


そのまま腕を引かれて近くにあった自販機の傍に連れていかれる。 零はミネラルウォーターを買うと、そのまま私の方にそれを投げた。


「とりあえず飲め。酔いすぎだ、酒弱いくせに」
「・・・・・・ありがと」
「ったく、そんなに酔うまで飲むなんて何かあったのか?」


零の目に心配の色が浮かぶ。言葉は荒っぽくても心配してくれてることに気付かないほど、彼との付き合いは浅くない。

ぽんっと頭に置かれた零の手の温かさに、ずっと堪えていた何かがぷつりと切れた。



「・・・・・・っ、・・・れいぃ・・・」

堪えきれなくなった感情は、涙として溢れ出す。


ぎょっと目を丸くした零が、慌てた様子で私の涙を拭う。


「どうしたんだよ、本当に・・・。景と何かあったのか?」
「・・・っ、ぐすっ・・・、ヒロくんが浮気したぁぁぁ〜!!!」
「はぁ?!?!」
「ヒロくんが、・・・っ・・・今日・・・女の人といたの・・・!」
「今日?景なら俺とずっと一緒に仕事だったけど・・・、いつの話だよ、それ」


零の言葉なんて頭に入ってこなくて。

言葉に出したことでその事実が心に重くのしかかってくる。


ヒロくんが浮気なんてするわけない。そんなこと誰よりも私が分かってるはずなのに。


私は目の前にいた零にしがみついて、わんわんと子供みたいに泣きじゃくった。


零は詳細を聞くより、とりあえず私を宥めることを選んだらしくそっと頭を撫でてくれる。その手が優しくてまた涙が次から次へと込み上げてきた。


prev / next

[ back to top ]