番外編 カミサマ | ナノ
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▽ 1-2



近くに車を停め言われた場所に行くと、近くの自販機の影に2人の姿を見つけた。


零に抱き着きその胸に頭を預け泣きじゃくるなまえ。困り顔でそれを宥める零。込み上げてくる真っ黒な何かを抑え、2人に近付く。


「なまえ」
「・・・っ、!」

その背中に声をかけると、びくりと小さな肩が跳ねる。


オレの方を見ることなく零に抱き着いたままのなまえ。泣いてる理由も、拒絶される理由も分からない。

零の顔を見ると、彼もまた状況が飲み込めていないようだ。



「とりあえず泣きやめ、なまえ。景に言いたいことがあるなら2人で直接話せ、な?」
「言いたいこと?」
「こいつもこんな感じだし、ここだと人目につく。とりあえず連れて帰って2人で話した方がいい」


なまえの体を両手で自分から離すと、零はオレの方を見ながらそう言った。

たしかに零の言う通りだ。ここでは人目につきすぎる。


「・・・・・・なまえ?とりあえず帰ろう」

両目にまだ涙を溜めているなまえの腕をそっと引く。振り払われこそしないが、交わらない視線がもどかしい。


「じゃあ俺は帰るぞ」
「あぁ、助かったよ零」
「ちゃんと話せよ」


零はそのまま背中を向け駅の方へと歩いていく。

その背中を追うなまえの視線が名残惜しさを滲ませている気がして、モヤモヤとした形容し難い感情が胸を覆った。






酔いの回った頭は上手く働いてくれなくて。感情のセーブもできない。


ヒロくんのことを理解して受け止めて笑っていたいのにそれが出来ない自分の弱さに腹が立つ。・・・・・・大好きなのに。信じてないわけじゃないのに。


無言のままの車内。
家に着くと、上着を脱いだヒロくんはソファに座った私の隣に腰掛けた。



「何があったの?オレには話したくないこと?」
「っ、・・・」

怒るわけでもない。ただただヒロくんの声が優しくて。

余計に自分の中のこの感情が汚く思える。



「・・・・・・ごめん、なさい」
「なまえ?」
「っ、ごめん・・・ヒロくん・・・っ・・・」


セーブの効かない感情が込み上げてきて、1度は止まっていたはずの涙がまた流れ出す。


ヒロくんは困ったように眉を下げると、そのまま私の体をそっと引き寄せる。その優しい手を少しでも疑ってしまう自分が嫌だ。


「・・・・・・夕方、ヒロくんのこと見たの・・・っ、」
「夕方?」
「長い黒髪の女の人と仲良さそうに話してるの見て・・・、仕事なんだろうなって分かってたのに・・・・・・っ・・・、その時のヒロくんの表情が私の知らない人みたいで・・・・・・、ぐすっ・・・」


ヒロくんのシャツの胸元を掴み、嗚咽混じりに言葉を紡ぐ。私の言葉を聞いたヒロくんは、何かを思い出すように目を伏せた。





夕方、長い黒髪・・・・・・。


なまえの言葉を頭の中で繰り返す。


いき当たった1つの可能性。

思わずふっと吹き出しそうになるのを堪え、なまえの髪を撫でた。



「俺が浮気したと思った?なまえとの約束より、仕事って嘘ついて他の女の人と会ってたと思う?」
「っ、仕事が嘘なんて思ってない!」


ばっと顔を上げてぶんぶんと首を振るなまえの目は真剣で、少し意地の悪い物言いをしてしまったことを反省した。


甘えたで寂しがり屋のなまえ。そんな彼女が一生懸命オレの仕事を理解しようとしてくれてることは分かっていた。寂しい思いをさせる、危険に巻き込むかもしれないと分かっていても手放せなかったのはオレのエゴだ。


だからこそ一緒にいる時間は、甘やかしてやりたいし笑っていて欲しい。



「なまえが見たってその黒髪の人だけどさ、」
「っ、」

なまえが腕の中で小さく息を飲む。その反応ひとつすら可愛くて。



「男だから、その人。オレの仕事仲間。遠目だったし、たしかに長髪だから後ろ姿だけだとそう見えちゃったのかもしれないね」
「・・・・・・お、とこ?」
「うん。それにあの時カフェの中に零もいたから。不安なら零に確認してもいいよ」


なまえが見た黒い長髪の人物。


ライ


男にしては長すぎるその髪。座っていたから体格はよく見えなかっただろうし、後ろ姿なら取り乱したなまえが勘違いするのも理解出来た。


ライを女と間違えななんて話したら、多分零は笑うんだろうな。なんてくすりと笑みがこぼれた。


いつもと違う表情をしていたというのは、きっとそれはスコッチ≠ニしてのオレだったから。


そこまでなまえに話す必要はない。


それはオレの中で彼女を守る為の線引きだった。






ヒロくんが嘘をついているとは思えなくて。全ては私の早とちりと勘違い。


恥ずかしさともなんとも言えない気持ちでさっきまでの酔いが覚めていく。



「誤解は解けた?」
「・・・っ、私・・・」
「じゃあ今度はオレの番ね」


ヒロくんはそう言うと、ふわりと私の体を抱き上げ自分の膝の上に乗せた。


こつん、とあたる額。睫毛が触れそうな距離に心臓が大きく脈打つ。



「まず飲みすぎ。お酒強くないのにオレのいないところでこんなになるまで飲まないで?」
「・・・・・・ごめんなさい」
「あと零相手でもあんな風に引っ付くのはダメ」
「ヒロくん・・・」
「返事は?」
「っ、うん・・・、ごめんなさい」


真剣な声と瞳がふっと和らぐ。すっと私の髪を撫でそのまま背中に回される腕。引き寄せられた彼の胸から聞こえてくる心音。


いつもと変わらないヒロくんの香りに包まれる。



「いつも寂しい思いさせてごめんな?」

耳元で紡がれるヒロくんの言葉は、どこか切なくて。思わずぎゅっと強く抱き着く。


「でもこれだけは信じて欲しい。オレが好きなのは、今までもこれからもなまえだけだから。絶対何があってもなまえの所に帰ってくるって約束する」


ヒロくんの抱えているものの全ては私には分からない。それでも誓いにも似たその言葉とこの温もりだけでで十分だと思った。


幸せだと、そう思えた。


Fin


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