▽ 1-2
ファミレスを出た私達は駅までの道をゆったりと歩いていた。
思えば私の知らないヒロくんの友達に紹介してもらったことは初めてで、何だかそれがくすぐったいようなきゅんとするような温かな気持ちになる。
二人とも話しやすくて距離を縮めるのに時間はかからなかった。
特に陣平の方は、口うるささこそ零の方が上だけどその雰囲気が少しだけ彼に似てたから。
からかい混じりに名前を呼んでもきっとこの人は許してくれるだろう。噛み付いてきながらもその根っこにマイナスの感情はなくて、そのじゃれあいを楽しんでいる自分がいた。
「じゃあ俺達反対方面だから行くわ!またね、なまえちゃん」
「次までに好き嫌いなくしとけよ」
ひらひらと手を振りながらホームの反対側に向かう萩原さん達。その背中を見送った私達は、自宅のある駅へと向かう電車に乗った。
ゆらゆらと揺れる電車内。
なんだかいつもより口数の少ないヒロくんが少しだけ気になった。
話しかければこたえてくれるし、いつもと変わらない笑顔を向けてくれる。
でも少しだけ雰囲気が違う気がして。
最寄り駅についた私達は本屋に寄るという零と別れ、ヒロくんの家に向かった。
*
久しぶりに入った彼の部屋。
ヒロくんの欠片で溢れるそこは私にとってどこよりも落ち着く場所。
「ねぇ、ヒロくん。何かあった?」
ベッドを背もたれに床に腰を下ろしたヒロくんの前にぺたりと座りながらずっと気になってきたそれを尋ねる。
「ん?どうして?」
「電車の中でも少し元気なかった気がしたから」
「ははっ、バレてたか」
困ったように笑うヒロくん。伸ばされた手が私の頭に触れる。
温かなその手が心地いい反面、元気のない理由が気になった。
「おいで、なまえ」
誘われるまま、胡座をかいていたヒロくんの上に向き合って座る。
ぎゅっと抱き寄せられる身体。とくん、とくんと聞こえる心音。
ヒロくんは私の首元に顔を埋めた。
「会いたかった」
「っ、」
「久しぶりになまえの顔を見たら、すぐにでも抱きしめたくなった」
「・・・・・・ヒロくん・・・」
予期していなかった言葉に頬が一気に熱を帯びる。
ふぅと小さく息を吐くとヒロくんはそのまま言葉を続けた。
「なのになまえはずっと萩原達とじゃれ合ってるし」
「へ?」
「零と一緒にいるところはもう慣れた。慣れたっていっても嫌な時は嫌だけど・・・・・。でも今日会ったばっかの萩原達とあんなに仲良くなるとは思ってなかったから」
「〜〜っ、」
ぽつぽつと本音を語るヒロくん。
駄目だと分かっていても、嬉しさを隠せない私は声にならない気持ちを噛み締める。
「大事な友達だから仲良くなってくれたことは嬉しいけど、あんまよそ見しないで」
こつん、とヒロくんの額が私の額に触れる。
よそ見なんて・・・・・・、
「するわけないじゃん!私はヒロくんしか見てないもん!」
すごい剣幕でそう言いきった私を見て、ヒロくんはふっと笑う。
「オレだけ見てて、これからもずっと」
「当たり前じゃん、そんなの」
ヒロくんの手が私の首筋に触れる。
「・・・っ・・・、ん・・・」
ぞくり、とするその感触に思わず声が洩れる。そんな私を見て満足気に笑うヒロくん。
そのまま彼の舌が首筋を這う。
ちくり、とした痛み。唇を離すとそこには赤い痕が一つ。
「いい?」
耳元で囁かれた言葉は色香を含んでいて、それだけでどくんと心臓が大きく脈打つ。
断る、なんて選択肢は私の中にあるわけもなくて。
こくん、と頷くとヒロくんの目尻が柔らかく下がる。
押し倒されたベッドから香るヒロくんの香りと、抱き締められるその腕の温度。
彼の全てに包まれるその時間は、甘くて蕩けるほど幸せなものだった。
Fin
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