▽ 1-1
※ 一部、君ありて幸福とのクロスオーバー要素含みます。ゆるっとした時系列、人間関係になりますのでご了承ください。
久しぶりの外出許可がおりた休日。
零をはじめとしたいつものメンバーとともに警察学校を出て、最寄り駅へと向かう。
「ふぁ〜、やっと自由だ」
「陣平ちゃんはいつも自由にやってるじゃん」
「昨日も勝手に夜抜け出して教官に怒られてただろう」
「むっ、そうなのか?!」
「おいコラ零!班長にはバレてなかったのに余計なこと言うんじゃねぇよ」
じゃれ合うようにそんな話をしながら歩く四人を眺めていると自然と目尻が下がる。
そのとき、駅の近くに立つ人影を見つけ先程までよりはっきりと表情が緩む。
「あ!ヒロくん!!」
オレに気付いたその影がぱぁっと花の咲くような笑顔で手を振る。
ぱたぱたとこちらに駆け寄ってくるなまえ。それに気付いた萩原達の視線がオレの方へと向けられる。
「わざわざ迎えに来るなんて、せっかくの休みなのに暇なのか?」
「うるさいなぁ。別に零を迎えに来たんじゃないもんねーっだ!はやくヒロくんに会いたかっただけだもん」
いつものように軽口を叩き合う零となまえ。昔から見慣れたその光景。べーっと零に向けて舌を出したなまえが甘えるようにオレの腕に絡む。
「もしかしてこの子が諸伏ちゃんの彼女?」
「そういえば幼馴染みと言っていたな」
班長と萩原が興味深そうになまえを見る。
萩原の隣に立つ松田は、何も言わず眠そうに目を擦っていた。
「あぁ。なまえっていうんだ。なまえ、挨拶は?」
「っ、えっと、みょうじ なまえです!はじめまして」
ぽんっと頭を撫でると、少し恥ずかしそうに頭を下げるなまえ。相変わらず人見知りは健在で、零に噛み付いていたときとは別人のようだった。
それがなんだか新鮮でくすりと笑みがこぼれた。
「可愛いなぁ。何歳?大学生?」
「えっと・・・っ、」
ニコニコと持ち前の人当たりの良さを発揮してなまえに近付く萩原。その距離の近さに困ったようにオレを見上げるなまえ。
庇護欲をそそられる上目遣い。
久しぶりに会う彼女はやっぱり可愛くて。
「おい、萩。お前はいちいち近いんだよ」
「っ、おっと。ごめんごめん、つい癖で」
「距離感バグってんのは、あの馬鹿相手だけにしろ」
オレが止めに入るよりも前に、萩原の腕を引いたのは松田だった。
へらりと笑う萩原は、もう一度「ごめんね」となまえに伝え距離をとる。
「てか腹減った。飯食って帰ろうぜ」
「賛成。なまえも一緒に来るか?」
「いいの?」
「もちろん。なまえちゃん、何食べたい?」
松田のそんな一言で、彼女との約束があるという班長以外の五人で駅の近くのファミレスに向かうことになった。
*
昼時を少し過ぎていることもあるせいか、人の疎らな店内。それぞれ注文したものを待ちながら、話はやっぱりなまえのこと。
最初こそ緊張していたなまえだったが、オレや零がいるおかげもあるのか次第に肩の力が抜けていく。
「へぇ、じゃあ萩原さん達二人も幼馴染みなんですね」
「そうそう、ガキの頃からずっと俺のこと大好きだもんなぁ、陣平ちゃんは」
「はぁ?!誰が・・・っ、」
萩原達のやり取りを見て、楽しげにケラケラと笑うなまえ。
しばらくすると注文していた料理が運ばれてきて、松田達のじゃれ合いも一時中断される。
他愛もない話をしながら食事をしていると、隣に座るなまえが何やらちまちまとフォークを動かしていることに気付く。
彼女が頼んだパスタの皿の隅に器用に集められているキノコたち。
子供みたいなその行動に思わずふっと吹き出す。
そういえばキノコ食べれなかったな、昔から。
そんなオレに気付いたなまえがちらりとこちらを見る。
「メニューの写真にはキノコのってなかったんだもん」
「ははっ、それは仕方ないな。こっち入れといていいよ」
「ありがと、ヒロくん!」
食べられないけれど残すのは申し訳ないと思っていたんだろう。皿をなまえの方に寄せると、その表情が和らぐ。
「「甘やかしすぎだろ」」
隣と正面から聞こえた声が重なる。
声を上げた本人も少しだけ驚いたようだったが、すぐにいつもの調子で言葉を続ける。
「景はいつもこいつを甘やかしすぎなんだよ。子供じゃないんだからそれくらい食べろ」
「俺も零に賛成。好き嫌いしてたらでかくなれねぇぞ」
そんな二人をジト目で見るなまえ。
「嫌いなもんはしゃーねぇよなぁ?よしよし、女の子がそんな顔しないの」
「萩原までこいつを甘やかすなよ」
「言うだけ無駄だぜ、零。萩はヒロの旦那以上にベタ甘な奴だから」
テーブル越しに手を伸ばした萩原がくしゃりとなまえの髪を撫でる。思わぬ味方を得たなまえは、残されていたキノコの最後の一つをオレの皿にのせた。
「ヒロくんにしか甘えてないからいいんだもん。零も陣平もうるさい。萩原さんは味方してくれたから好きです」
「お、ラッキー!」
「おい!なんで萩はさん付けで俺は呼び捨てなんだよ!」
「陣平は陣平だもん」
楽しげに笑う萩原とは反対に、松田が声を荒らげる。けどそこに怒りなんて含まれていなくて。じゃれ合ってるだけ、そんなことは頭では分かっていた。
零となまえがふざけ合っているところは、子供の頃からずっと見てきたから心の中で慣れていたんだろう。
でも今日初めて会う松田や萩原に懐くなまえの姿を見ていると、どうにもモヤモヤとした何かが胸を巣食う。
その感情の名前を知ってはいるが、子供みたいで認めることがはばかられた。
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