▽ 1-2
枕元に置いていた携帯が短く鳴り、その音で目が覚めた。
俺の胸元に頭を預けてすやすやと眠るなまえの髪をそっと撫でながら、携帯の画面を確認するとそこには風見からのメッセージ。
文字で返事をするより電話の方がいいと思い、なまえを起こさないようにそっとベッドを出るとリビングに向かった。
ソファに腰掛けながら風見と話している間も降り止まない雨。激しく窓を叩く雨粒の音が、静かな部屋に響く。
風見との話を終え電話を切る。寝起きの頭はすっかり仕事モードへと切り替わっていて、そのまま届いていたメッセージ達を確認していると寝室で小さな物音がした。
なまえが起きたか?と思い寝室に向かおうと立ち上がる。
ドアを開けると体をベッドの上で体を起こしていたなまえと視線が交わる。
「・・・・・・っ、」
「なまえ?・・・・・・泣いてるのか?」
常夜灯にぼんやりと照らされた薄暗い寝室。
俺を見るなまえの瞳からは、大粒の涙が溢れていた。
なまえに近付き隣に腰を下ろすと、そのまま涙を拭う。震える手で俺の服の胸元を掴んだなまえはぎゅっと強く腰に腕を回し抱きついてきた。
「なまえ。もう大丈夫だから。な?」
「・・・・・・零くん・・・っ・・・、れい・・・」
あやすように頭を撫でながら名前を呼ぶけれど、返事はなくてただ俺の名前をうわ言のように繰り返すなまえ。
彼女がこんな風に取り乱す姿を見せることなんて滅多にない。
ただ今の俺にしてやれることは、その震える小さな身体を強く抱きしめてやることだけだった。
*
子供みたいに泣く私を零くんは何も言わず強く抱きしめてくれた。
鼓膜を揺らす零くんの心音。私の身体を包み込んでくれる体温。その全てが現実なのに、あの夢が頭から離れてはくれない。
仕事で疲れてるはずの零くんの負担になりたくないのに。
大丈夫だよ、ごめんね。っていつもみたいに笑いたいのに、流れる涙は止まってくれなくて。
「・・・・・・っ、・・・嫌いにならないで・・・」
やっとの思いで絞り出した言葉。
零くんの肩がぴくりと跳ねる。
「ならないよ。嫌いになんかなるわけないだろ」
即答ではっきりとそう言いきってくれることが嬉しいのに。
彼の気持ちを疑ってるわけじゃないのに、そんなことを聞いてしまう自分が大嫌いだ。
「・・・・・・面倒くさくてごめん・・・っ・・・」
溢れた涙が零くんの服にシミを作っていく。更けていく夜の闇の中、雨はまだ降り止まない。
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