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▽ A little prayer for you



まるでそれは主人に従順なペットのようだった。


私はジンが望むなら何でもした。

彼が情報が欲しいと言えば、相手がどんな男でも抱かれて情報を得た。

胃からこみ上げる吐き気を押し殺し、笑って愛想を振りまいた。


この世界で私のことを必要としてくれるのは、今ではたった一人・・・・・・ジンしかいなかった。





「なまえ、腕出せ」

行為の途中でジンはそう言いながら注射器を手にした。

素直に腕を差し出すと、なんの躊躇もなく腕に刺される針をじっと見つめる。


クスリ・・・・・・か。

頭の中に霞がかかったようにぼうっとする。何か考えたくても、その白い霞が思考を妨げる。

これはいい。何も考えずにいられる。


私は考える事を放棄し、ただ目の前の快楽に溺れた。




彼との行為は、決して優しさや甘さのあるものではなかった。


身体中に傷や痕を残されることや、落ちる寸前まで首を締められることもあった。


傍から見れば異常だろう。


痛みと快楽。

その時間だけは自分がここで生きているんだと実感できた。

私は彼の与えてくれるものに依存していた。





そんな生活を続けてどれくらいの月日が経ったんだろう。


ジンに連れてこられた組織の集まり。

私はスモークの貼られた彼の車の中でその様子を眺めていた。


「・・・・・・っ・・・、あれは・・・!」


ベルモットの隣に立つ男。


見間違えるはずがない。

雰囲気こそ変わっているものの、その髪の色と瞳はあの頃のままだった。


「なんで・・・こんな所にいるの・・・・・・」


再会の喜びなんてあるわけがない。


あんなに真っ直ぐ前を見据えて、キラキラとした瞳を持っていた彼さえもこの漆黒にのまれてしまった・・・・・・。


悲しさなんてもう感じることはないと思っていた心が、絶望の淵へと突き落とされるような気がした。




バーボン。

それが彼のコードネームらしい。


「・・・い、おい」
「・・・っ!・・・ああ、ごめんなさい。もう一度言ってくれる?」


数日ぶりに私の部屋へとやってきたジンは、どこか苛立ちを隠せずにいた。


「この組織に裏切り者がいる」
「裏切り者?」


そういえばFBI捜査官が潜り込んでいたときも彼はこんな顔をしていたな・・・・・・。

話はしたことがないけれど、何度かジンの車の中から見た長い黒髪の男を思い出す。


「バーボンだ」


そう言って投げられ紙には彼の写真が貼られていた。


「・・・・・・どうすればいいの?」


写真とはいえ数年ぶりにちゃんと見た彼の姿に、動揺する心を隠しながらジンを見据える。


「しばらく奴を見張れ。手配は俺がやる」


そう言い残すと部屋を出ていくジン。


どういうこと・・・・・・?

裏切りに関してとても敏感なジンの予想が外れることは少ない。


彼は組織を裏切っているの?

普段使うことのない頭を必死で働かせ、思考を巡らせる。


「・・・・・・もしかして・・・」


一つの可能性に辿り着く。

彼もあのFBI捜査官のようにこの組織に潜入しているのだとしたら・・・・・・。

彼が本当は正しい側の人間だったら・・・・・。


考えても出ない答え。
けれどどうかそうであって欲しいと、願わずにはいられなかった。


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