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▽ Just seeking sensual pleasure



ジン。

そう名乗る彼に連れてこられたのは、綺麗なマンションの一室だった。


「好きに使え」
「・・・・・・うん」


ジンが見返りに私に何を求めてるのかは知らないけれど、毎晩あそこで相手を探すことにも疲れていたし丁度いい。


「なんで私を拾ったの?」
「理由が知りたいか?」
「そりゃね。それになんで私の名前を知ってるのか気になるわ」


私が座る椅子から少し離れたベッドに腰掛けると、ポケットから煙草を取り出すジン。


「お前の親は何をしていた?」
「仕事ってこと?詳しくは知らないわ。父が研究所に勤めてるって聞いたことはあるけど」
「そうか」


ジンは口の端で煙草を咥えたまま、引き出しを漁る。そして一冊のファイルを取り出すと私に渡す。


「なにこれ?」
「読んでみればわかる」


ぺらぺらとページを捲ると、両親の名前が飛び込んでくる。

これは・・・・・・何かの研究報告だろうか。


「お前の両親は俺達の組織に協力していた研究者だった」


彼が口にした組織という言葉。
それが人の為になるような研究を行っている場所でないことは、目の前に立つ彼の雰囲気が物語っていた。


「貴方の仲間だったってこと・・・?」
「仲間?違うな、奴らは裏切り者だ」

口元に嫌な笑みを浮かべながら、ジンはすべてを話してくれた。




父との結婚で実家から勘当された母。

最初こそ順調だったものの、元々良家出身の彼女は贅沢な暮らしをやめることが出来なかった。

父一人の稼ぎではどうすることも出来ず、いつの間にか貯金も底を尽き生活苦に陥る。

そんなとき元々薬剤の研究をしていた父に、組織からの声がかかり二人はその誘いに乗った。

けれど組織での研究は真っ当なものとは言えず、人の道から外れたもの。
それに耐えることの出来なかった二人は、組織を離れることを決意し、それをあの事故の日に伝えに言ったらしい。


「それで貴方達が殺したの?」
「ああ、あいつらは知りすぎていたからな。殺ったのは俺だ」


自分でも驚くほど冷静だった。

目の前の男に対する怒りは不思議と湧いてこなかった。


それよりも何も知らなかった自分の馬鹿さ加減に呆れる・・・・・・。

優しい人だと信じて疑わなかった両親が、そんな組織に関わっていたなんて・・・・・・。


「・・・ふっ、はははっ!」
「何が可笑しい?」
「馬鹿みたい」


笑いが止まらない。

私が信じてきたものは何だったの?


結局あの女の言う通りだった。
バチが当たったのだと笑った彼女の顔が頭に浮かぶ。



「それで・・・・・・貴方は私も殺すの?」

ここで人生を終わらせられるならそれも悪くない。もう疲れた・・・・・・。


「・・・・・・それも考えていたが」

煙草の火を消すと、一歩また一歩と私に近づくジン。


「今すぐ殺すには勿体無いな・・・、俺の為に働け」


何もかもどうでも良かった。

「わかった」
「先に言っておくが、俺は裏切りは許さないからな」
「そう・・・、肝に銘じておくわ」


何の為に私はここで生きているんだろう・・・・・・。

何も考えたくない。


「ねぇ、ジン・・・・・お願いがあるの」
「なんだ」
「今日はもう何も考えたくないわ」


ベッドに座る彼の隣に腰掛けると、すっとその首に手をまわす。


「役に立ちそうだな、その顔も身体も」


そう言って私をベッドへと押し倒す彼の瞳は、やっぱり底の見えない冷たさを孕んでいた。


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