▽ Encounter with silver
結局死ぬ勇気なんて私にはなかった。
どれだけ手首に傷を増やしても、最後の最後で躊躇してしまう。
どこまでも弱い自分が大嫌いだ・・・・・・。
*
叔父と呼ぶことすら穢らわしいあの男に唯一感謝することがあるとすれば、私のこの顔と身体に価値があると教えてくれたことだろう。
「5万でいいよ」
「わかった、じゃあ行こうか」
あの家に帰りたくなくて、毎晩ネオンの煌めく街へと出掛けた。
お金もなにも持たない私だったけれど、この顔は武器になった。
にっこり笑って愛想を振りまけば、馬鹿な男が寄ってきた。
この身体さえ差し出せば、お金も寝る場所も提供してくれる。
今更こんな身体が汚れたって、私にとっては取るに足らないことだった。
私の首筋へと顔を埋める男を見ながら、ふとあの青い瞳の彼を思い出した。
そう言えばさよならも言えなかったな・・・・・。
けれどあの人にこんな汚れた私は見せたくない。
たった数日だったけれど、両親を亡くしてから初めて明日が来るのが楽しみだと思えた・・・・・・。
「・・・っ、もう我慢できない・・・。いい・・・?」
「うん、いいよ」
そう言って私の中で果てた男にバレないように溜息をつく。
私はいつまでこんな日々を過ごすんだろ・・・。
*
その日もいつも通り繁華街をふらふらと歩いていると、一人の男の人が私の前を塞ぐ。
目の前の彼は漆黒を身に纏い、長い銀髪を風に揺らしていた。
「みょうじ なまえか?」
氷のように冷たい彼の瞳が私をじっと見つめる。
「・・・・・・誰?」
「質問に答えろ。みょうじ なまえかと聞いている」
「・・・・・・ええ、そうよ」
「ふっ、思ったよりいい女だな」
突然顎を掴まれ、強制的に彼と視線が交わる。
「俺と一緒に来い」
この人が誰かは知らない。
彼の雰囲気は周りとは異質のもので、明らかに堅気の人間でないことはわかった。
その圧倒的なオーラに思わず足が竦みそうになる。
「・・・・・・返事は?」
「一緒に行けば私にメリットがあるの?」
「メリットね・・・。俺に従うならこんな馬鹿みたいな毎日よりはマシな生活をさせてやる」
「・・・・・・わかったわ」
怖い。けれど同じくらいその瞳の強さに惹かれた自分がいた。
この人みたいな強さがあれば、傷付くことはないんだろうか・・・・・・。
冷たいけれど真っ直ぐに私を見つめる彼に、気が付くと私は頷いていた。
(銀色との出会い)
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