You don't know me | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▽ I want to see you



「・・・・・・焦げた」

目の前にはクッキー・・・・・・、になるはずだった黒い塊。


ひと口食べてみるも、やっぱり美味しくはない。


「食べられないってほどじゃないけど・・・・・・まずい」

これだからお菓子作りなんて繊細な作業は嫌いだ。




自分の心が決まってからの日々は、不思議と穏やかでいられた。


これからの未来に対する恐怖より、この生活を記憶に残しておきたい・・・・・・。


きっともうこれが最後だから。




捨てようと思っていたクッキーを口に運んだ彼。


「美味しくないでしょ?」
「・・・・・・苦いです」
「だから言ったじゃない」
「嘘です、美味しいですよ」


笑いながらまたクッキーに手伸ばす。


嘘つき。

彼と出会ってから涙腺が緩くなってしまった。


この人が笑う度に泣きたくなるのは何故だろう・・・・・・。





どんなにきて欲しくないと願ったところで、約束の日はやってくる。


「約束は明日までだ」
「ええ、わかってるわ」

ジンからの電話で夢のような時間が終わる。


扉一枚挟んだ向こうにいる彼と過ごすのは今日で最後だ。


「淋しいな・・・・・・」

そんな思考を振り払うように携帯を手に取ると、ベルモットに電話をかける。


「何かしら?」
「ねぇ、ベルモット。お願いがあるの」
「・・・・・・ふっ、ジンに嫌味を言われるようなことは嫌よ」
「最初で最後よ。お願い」


最初はいつもの調子で笑っていた彼女だが、真剣な私の声に笑うのをやめる。


「・・・はぁ・・・、内容によるわ」
「ありがとう」


準備はできた。これでいい。




「ねぇ、バーボン。気をつけてね」

翌朝、部屋を出ていく彼に思わずそう呟いてしまう。


これで彼を見送るのは最後だ。


どうか・・・、どうか・・・、


この人の進む未来が少しでも明るいものでありますように・・・・・・。


彼の事情なんて私は知らない。


けれどこの組織に馴染むような人ではない。


あの黒髪の彼と同じ立場なら・・・・・・、ジンが彼を許すとは思えなかった。


「もっと私に力があればよかったのに」


結局私は、いつだって無力だ。


彼への手紙を書きながら頬を涙がつたう。


私の事は忘れてください。
(忘れないで)

助けようなんて思わないで。
(・・・・・・助けて)


書き終えた手紙を本に挟みソファの隅に置く。


「さよなら・・・・・・」


私は一ヶ月間過ごした部屋をあとにした。


()


prev / next

[ back to top ]