優しい貴方へ | ナノ
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▽ 忘却と嫉妬



「おはよう、バーボン」
「おはようございます」

翌朝、目覚めたナマエは昨晩のことを何も覚えていないようだった。


窓から差し込む光を浴び眩しそうに目をこするナマエは、昨日の取り乱した姿とはかけ離れていてもしかしてあのとき見たナマエは夢だったんじゃないかとすら思えた。


「どうかしたの?」


黙り込む俺の顔を見上げる彼女。


「・・・・・いえ、なんでもありませんよ。朝食にしましょう」
「あ、和食だ!美味しそう」


そう言いながら俺の用意した朝食が並ぶテーブルへとぱたぱたと駆けていくナマエ。まるで子供のような彼女・・・・・最初に会った時よりも色々な表情を見せるようになったナマエに少しずつ興味を惹かれていた。



登庁日だった今日。溜まりに溜まった報告書をやっとの思いで処理し終えると、ナマエのいるあの場所へと車を走らせる。


帰り道、ふとケーキ屋に立ち寄ったのは気まぐれだった。俺が料理を作る度に楽しそうに笑うナマエ。甘いものでも買って帰れば喜ぶんじゃないか、らしくもなくそんなことを考えていた。


セーフハウスに着き、車から降り部屋に向かっていると携帯が鳴った。


「バーボン?久しぶりね」


声の主は俺にナマエを預けた張本人、ベルモットだった。


「ご要件は?」
「ナマエのことよ。ジンが今日そっちに向かってるの。だから貴方今日はあそこに帰らなくてもいいわよ」


廊下を歩いていた足が止まる。


それだけよ、と言い残すとツーツーという無機質な音が響く。そういうことは早く言ってほしい、あと数歩進めばナマエのいる部屋だ。思わずため息がこぼれる。

とりあえずここまで来たのだから、顔だけでも出しておこう。ジンと会うのも久しぶりだ、彼女とのことを何か聞き出せるかもしれない。そんな思いから扉の前に立つ。


「・・・・んっ、まって・・・・ジン・・っ・」
「黙れ・・・・っ・・」
「・・・やっ・・・んん・・・・」

このセーフハウスは倉庫を改造したものらしく、壁や扉が薄い。部屋から漏れ聞こえてくるジンとナマエの声に、扉にかけた手から力が抜ける。

この状況でナニが行われているか、想像できないほど子供じゃない。そもそも最初から彼女がジンのものなのは分かっていた・・・・・そういう関係がある可能性もわかっていたはずだ。


なのになんで・・・・・。今すぐこの扉を開け、あの男と彼女を引き離したいと思ってしまった。


そんな思考を振り払うように、俺はセーフハウスをあとにした。



気が付くと俺は自分の部屋に戻ってきていた。数日ぶりの我が家に心が落ち着くことはなく、先程のナマエの声が頭にこびりついていた。


「・・・・・っ!くそ・・・・・」

自分らしくない感情に思わず苛立ちが募る。


そんなときポケットに入れたままの携帯が鳴る。またベルモットか?そう思いながら携帯を見る。


────・・・・・そこには俺の思考を占めていた彼女の名前が表示されていた。


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